星空と二人


「ふあぁ〜あ……」

 大きなあくびが出るほど眠い。いくら交代でとはいえ、こんな時間まで起きてるのは……

というところで時計を見て……3時10分。普段する徹夜は長くても2時だから、眠いはずだ。

朝まで起きてないと徹夜とは言わないのだろうが……

 山藤に付き合わされて、学校の屋上で隕石が降るのを看視。夜中の11時から朝の5時まで、

90分ごとに見張るのと仮眠をとるのと交代しながらやっている。そんで今俺が空を見てる番で、

山藤は屋上にある天文部の部室を借りて今眠っている。夏とはいえ、夜は少し肌寒いから

寝るときは建物の中でないとな。でもこうして外で立ってても少し汗ばむくらいだから、外でも

いいような気がするが……寝る時はもう少し落ち着いたところの方が疲れも取れるのだろう。

 正直、昨夜隕石が落ちて今夜も落ちるなんて思わないので、今やってるのは無駄なような気が

するのだが……俺もやるって言っちゃったんだから仕方がない。山藤だって真面目なんだからな。

夜食用だとお菓子を大量に持ってきたのはどうかと思ったが。

 今日の空は綺麗に晴れていて、星もよく見える。オリオン座って冬の星座って言われてるけど、

この時間ともなると東の空に見えてたりする。あれくらいならわかりやすいので知ってるが、

あとは単に星が散らばってるようにしか見えない。あおいちゃんとか、天文部の部員たちは

全部星座がわかるんだろうな。俺もたまにいいなとは思うが、毎日ともなるとさすがに飽きる……

「テツ、ちゃんと見てる?」

 天文部の部室の扉が開き、山藤が姿をのぞかせた。まだ交代の時間には少し時間があるのだが。

「目がさめちゃったし、二度寝したら次起きた時辛そうだから」

「確かに……じゃ、俺寝ていいか?」

 限界とまではいってないが、横になればすぐに眠りそうな状況だったので返事も待たずに

部室へ向かおうとした。だが、

「待って……もう少しいてよ」

 ったく……無視して寝ようかとも思ったが、山藤の言葉が怒ったようでもなかったので

聞いてもいいか、と立ち止まる。振り返れば、彼女が屋上の2mくらいの高さのフェンスに

手をかけて、グラウンド方向を眺めているのが見えた。

藍子

「怒ってる?無理矢理徹夜させてるのに」

 少し申し訳なさそうに彼女がつぶやいた。そう思ってるならつき合わせるなよ、とは思うが

彼女1人で見張らせるわけにもいかず。

「怒ってるってわけじゃないけど……あおいちゃんたちだけに任せるわけにも」

 言いかけて、しまったと口をつぐむ。わかってはいたはずなのだが、ここ最近山藤の前で

あおいちゃんのことを話すと機嫌が悪くなる。そのときは別に彼女に好意があるとか

そういう話題じゃないのに、山藤はあおいちゃんのことを遠まわしながら嫌ってるような

口ぶりをする。彼女に直接何かされたわけでもないだろうし……というか本当の理由は

うすうす感づいていた。

「あおいちゃん、ねぇ……」

 山藤の呆れたため息が聞こえる。彼女が怒ってるのはあおいちゃんにではなく、

あおいちゃんのことを喋る俺に対してだろう。俺が彼女に好意があるのではと嫉妬しているのは

その辺にあんまり鋭くない俺でも気づくほどのわかりやすさだ。そりゃ俺があおいちゃんに対して

全く好意がないと言ったらうそになるし(あおいちゃんに対しても失礼だし)、山藤とは

1年以上部活で笑いあった仲だから、もしかしたら特別な感情をもたれてるのかもしれない。

 だが俺は……そういうことに対して小心者のせいで、山藤に直接聞くとか、そんなことは

できないのであった。それに俺自身、山藤のことをどう思っているのかわかっていない……

俺が答えられない質問を彼女にしてどうするんだ、というのもあるし。

「私とはなんか正反対な性格の人よね〜、なんかお人形さんみたいだし」

 人形、というのはあまり喋らないから、というイメージからだろう。対して山藤は――

よく喋る。まあ他の女の子とさほど変わらないのかもしれないけど、食事中まで喋り通す

くらいだからなぁ……学食で一緒になったとき、それはやめとけと忠告しておいたのだが、

すぐ治りそうもないよなぁ(苦笑)。でも彼女のことを考えてるからこそ、俺も素直に注意

できたのかもな……

「そりゃそっくりだったらそれはそれで嫌だけど……親近憎悪ってヤツ?似てたらその分

 優劣をつけやすいから、比較されやすそうだし」

 近親憎悪じゃなかったか、と思ったが自信がなかったので言わなかった。あおいちゃんが

もし山藤のような性格だったら、または山藤があおいちゃんみたいだったら……

あまり考えつかないが、やっぱり今のままの方が性格と姿が一致する。それは2人のことを

知っている者の意見だからだけど。

「だからって全く違う人間は両方選ばれる可能性があるとは、一概に言えることじゃ

 ないんだよね……人の好みとか」

 もしかしたら山藤は、俺と2人きりになって話がしたいから隕石を見張ろうと

言い出したのかもしれない。それがすべての理由でないにしても……俺を誘った彼女の勇気に

応えるべきなのだろうが、今は黙って話だけを聞くしかできない。でもできるだけ聞いてやろう。

それで彼女が少しでも安らげるなら――

 

 結局2人とも、朝まで起きていることになった。明け方はほとんど無言だったが、

一緒にいる間は眠気など気にしなかった。その分補習中はぐっすりだったけど(ぉ


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