失言と容疑


「その石は……単なる石じゃありません……」

 あおいちゃんは、山藤の言葉を訂正した。普通の石ではないとはうすうす感づいていたが、

やはりあおいちゃんは俺より詳しく知っているのだろう。

「その石は上空に細い空気の通り道を作り……隕石がそこに落ちやすくするのです……」

 隕石が通った大気中には「空気の通り道」というのができて、その近くに再び隕石が通ると

同じコースを通りやすくなるとか。だったら下からそれを作ってしまえばその近くへ落ちやすく

なるというのはわかる気がするが……この石にそんな作用があったとは。

 でも自然に落ちてる石がそんなことを起こすのか?だったら全部の隕石がそういう石の近くに

落ちるはずだよな。だったらとっくの昔に知れ渡ってて、「この石の近くに隕石が落ちるので

注意するように」とか言われるはずだ。その石を拾って一箇所に集めておけば被害は最小で

済むとか。だがそうではないとすると……

「この石は……作られたものなのか?」

 考えた末出した言葉に、山藤がまた反応する。そういえば隕石が人によって落とされたと

知ったときもショックを受けてたし……安易な発言だったと後悔したが、あおいちゃんが

否定してくれればと思った。だがその願いもかなわず――あおいちゃんは黙ってうなずいた。

「で、でも、私が今まで1年持ってたのに、その間近くに隕石が落ちたなんてないわよ?」

 山藤はなんとか否定できる材料を見つけようと、考えを練って尋ねる。隕石は日常的に

かなりの数が地球に落ちてるって聞いたことあるから、山藤の疑問も当然だ。建物の中にあれば

空気の通り道というのはできない、っていうのだったらわかるが、山藤はいつも肌身はなさず

持ち歩いていたようだ。部室にまで持ってくるくらいだからな。もしその時隕石が降っていたなら

山藤を直撃していたかも……と思うとゾッとする。

「あなたたちが石を盗まれてから、空気の通り道がよりできやすいように……

 改良されたのです……」

 やっぱり人工物なのは変わらないか……初めの隕石が部室から離れて落ちる程度の効果

だったけど、改良した今の石はその真下に落とせるほどの「威力」だ。でもこれなら

エネルギー変換のために落としても、誤差がより少なくなって周りに被害が出るってことが

なくなって、いいことなんじゃないか?かといってこれを破壊したい建物なんかに置いておけば

百発百中の凶器になるんだろうけど……

「ちょっと待って……」

 山藤が何かに気づいたようにつぶやく。誰かやってきた足音でも聞こえたのかと耳を

そばだてるが、雨音しか聞こえない。山藤はゆっくりとあおいちゃんの方へ向き直り、

「あなた、何でこの石が盗まれたって知ってるの?」

 あおいちゃんの顔に、明らかに動揺の色が見られた。確かにあおいちゃんは「石は盗まれた」

と言った。俺たちもそうなのではないかとは疑った。だが確証は持てないし、そのことを

あおいちゃんには言っていない。さっき山藤はここに「石が落ちてた」と言っただけだ。

全く同じ物を複製して置かれたのかもしれないし、それならそもそも盗む必要なんてないと

思われるが。

あおい

「……石はもともと、研究所で作られたもの……石を2つ以上作ると互いに影響しあうから

 誤差が大きくなります……だから1つしか作らないとすると、あなたの持っていたという

 石を盗んで、ここに置いたと……」

 あおいちゃんはこう言い直した。まああおいちゃんの言い回しは独特だから、山藤には

ああいう風に聞こえたのだろう。だが山藤はまだあおいちゃんに疑惑の視線をぶつけたままで、

「悪いけど……私は、あなたがあの石を盗んだんじゃないかと疑ってる」

「お、おい……」

 いきなり何を言い出すのかと山藤を止めようとしたが……あおいちゃんは潔白だと信じたいが、

山藤も考えなくて言ってるわけでもないだろう。白衣たちが盗んだというのが証明できない以上、

誰が盗んだとも疑えるのだから。

 でももしあおいちゃんが盗んだとして、ここに置いたとすると……そのまえにこの石は改造

されているんだから、実は彼女も白衣の仲間とか?!でも改造したということもあおいちゃんが

言ったことだから本当とも限らないし……って、あおいちゃんが犯人という考えで進むのも

いけないよな。

「と、とにかくここにいたら、いつ白衣がくるかわからないし、とりあえず雨をしのげる

 場所にいかないか」

 気づけばクレーターに雨水が溜まって、その中に突っ立ってた俺の足は泥水びたしに

なっていた。これだけ汚れりゃ新しいのを買わないとな……などと考えながら、山藤をなだめつつ

再び校舎の方へ3人で歩いていった。


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