光と衝撃


「……これか?」

「どれ?……違う」

 確か山藤が好きだといっていた曲の楽譜を見つけて尋ねたが、返事はこの通り。何度、

何十度、この問答を繰り返したことやら。いつのまにか窓から月の光が差し込んでいた。

部室の中を二人で数時間探したが、未だ見つかっていない。タチが悪いのは、その探している

ものが何かを、俺に教えてくれないことだ。

「なあ、いい加減何なのか教えろよ」

 さすがに疲労が限界に達して、手に持っていた楽譜や小物を投げ出す。よく考えてみれば

早いうちにエアコンをつけておけばもう少し楽に探し物が出来たのかもしれないが、いまさら

電源を入れるのもしゃくなので放っておいた。汗まみれになっていることに気づくたびに

後悔するのだが。

「だから、言いたくない……」

 この返事も何度目だか。山藤は強情を張って答えようとしない。それが何なのか知りたいが、

それももうどうでもよくなってきた。

「ともかく、そろそろ帰ったほうがいいんじゃないか?明日また探せよ」

「……うん」

 そう答えながらも、まだ諦めがつかないのか部屋を見回してため息をつく山藤。

ホントに部室で無くしたのか?という質問は探し出してから30分で言ってみた。答えは――

今まで探してたんだから言うまでもないだろう。しかし、俺も暇人だよな……

 

「とにかく、ありがとうテツ」

「ああ……今度探す時はちゃんと教えろよ」

 部室に鍵をかけて外に出る。運動場を見回しても誰もいない、というか暗くて誰かいるかも

わかりづらいほどだ。校舎の方ではいくつかの教室でまだ明かりがついている。特に屋上の

天文部は……夜にならないと活動ができないからな。

「しかし、部室ん中ひっくり返したままでいいのかな」

「どうせまた明日探すんだろ。部活はやるのか?」

「明日もない。夏休み中は週に1回しかやってないから」

 そんだけしかやってないのか。俺が2年の時は、そりゃ毎日のように部室に通って練習

したんだぞ(一部誇大あり)、と山藤に言おうと振り返った時。

 空の向こうから光り輝くものが、すごい勢いで降ってくるのが見える。一瞬ただの流れ星かと

思ったが、その光る時間と、光の筋の長さで違うと直感した。その光は夜空全体を照らすほどの

強さで、後ろを向いていた山藤も気づいて(むしろ振り返った俺が硬直してるのを見て)

不思議そうに振り返る、それよりも早く。

 その光が、地面に到達した。

ドォオオオォン!!

 スローモーションのように山藤がこちらに倒れてくるのが見える。しかしどうすることも

できず、俺もその場に尻餅をつくことになった。地震でも感じたことのない大きな揺れ。

地震と違うのは、その揺れは1回だけということだ。

「な……なに?!」

 手をついてまだ起き上がれない山藤が声を震わせている。彼女からは死角になっていたので

わからないだろうが、俺は何が起こったのか大体見当はついた。空から質量のあるものが

降ってきたのだ。おそらく、隕石だろう。俺は誰に呼ばれるわけでもなく、立ち上がって

隕石が落ちた方へ歩いていた。

「ちょ、ちょっとテツ?!」

 後ろから山藤の声が聞こえる。振り返っていないが、きっと彼女も起き上がってこちらに

向かっているのだろう。しかし俺の足は止まらない。別に一番初めに見つけて自慢したいとか、

そんなことを考えてるわけではないが、ここまで目撃しておいて無視して帰るわけにも

いかないし。気づけば、鞄も放り出して走っていた。

 

 部室の小屋の裏手、ちょっとした茂みになっている場所に小さなクレーターが出来ていた。

初めに感じたのは、これが学校の敷地を覆うほどの大きさであったなら、とぞっとしたが、

そうでないのでホッとしたのもある。その直径2〜3メートルのクレーターの中心は、

土が掘り返されたようになっているが、きっとあの中に隕石があるのだろう。しかし……

「これって……隕石?」

 追いついた山藤が興味ありげにクレーターを覗き込む。こういうことに首を突っ込みたがる

性格を知っていた俺は、彼女が足を踏み入れる前に制した。

藍子

「待て、隕石には放射線を含むものがあるって聞いたことがあるから、うかつに近づかない方が

 いいんじゃないか?」

 なぜかこういう豆知識のようなことは覚えていたりする。はっきり言って実用性がないと

思っていたが、まさか実用するとも思わなかった。

「ええ!?……じゃあ触れないの?」

 山藤が残念がる。確かに隕石なんか持ってたらちょっとした自慢にはなるだろうが、

ある意味単なる石だからなぁ。俺はいらないかな……しかしその手に詳しい大人に持っていかれる

くらいなら、山藤にあげたほうがマシだ。どうにか安全か確認できないものか……

 その時だ。後ろから茂みを踏み分ける足音がしたのは。


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