友人と白衣


「テツ、おはよう!」

 朝、信号待ちをしているとよく聞く声。呼び方は山藤と同じだが、この声の主は男。

登校時によく一緒になる、中学からの友人・名倉佑馬だ。といっても昨日の朝も

同じようにあいさつされたんだがな。

「おう、おはよう」

 普段どおりに返すが、佑馬の方はなんだか慌てて駆け寄ってくる。ああいうときは

なんか話したいことがあるということだろう。長いこと付き合ってたら奴のワンパターンさにも

呆れを通り越して感心する。しかし今日の朝はワンパターンな話題ではなかった。

「昨日の夜さ、僕たちの高校に隕石が落ちたらしいね!」

「へ、へぇ……」

 今朝の新聞やTVニュースですでに流されていたことなので、高校の生徒はほとんど全員が

知りえていることだろう。報道では「消えた隕石?あるいは砕け散ったか」などとされているが、

まさか俺ら(正確には山藤)が持っているとは、あおいって娘を含めた3人しか知らない事実だ。

「へぇって、知らないの?」

 あまり話したくない話題に触れられて適当な返事をした俺に疑問符を浮かべる佑馬。

するどい奴ではないのだが、今の俺の返事はそれよりも白々しかったかな……

「さ、さっきまで寝ててさ、ニュースとか見る暇なかったから……」

「ふーん、それにしても驚きが少ないなぁ」

「別に……どうせ隕石は大人が持っていくんだろ」

「それがさ、隕石の方はまだ見つかってないんだって。誰かが先に持ち去ったってたりして」

「……え?」

 佑馬にそんなことを言われるとは思いもよらず、大声を上げてしまう。再び佑馬の疑惑の

視線に慌てて口を塞いだが……学校へ着くまでの間、俺はできるだけ話題を変えようと努力した。

そこまでしなくても勝手に話題を変えてくれるのが佑馬のいいところ(?)なのだが。

 

 高校に着いた。これから昼過ぎまで補習である。本来は今の佑馬のように嫌な表情に

なるものだが、俺は昨日の出来事について考えてたので、同じ難しい顔でも内容は違っていた。

そのまま校門をくぐった俺らは、白い人影に声をかけられる。

「君たち、ちょっといいかい」

佑馬 & 暮郎

 親しげに声をかけたのは、丈の長い白衣に身を包んだ、30代と思われる男性。脇には資料の

束のようなものを抱えている。周りをよく見れば同じように白衣の人が何人も、同じように

学生に声をかけている。

「昨日の夜7時くらい、この学校の裏の草むらに隕石が落ちたんだけど、そのあたりにいた

 人とか見た覚えはないかい?」

 どうやら隕石を調査している人たちのようだが、隕石は誰かに持ち去られたと考えている

ようだ。それで聞き込みか……普通なら他人事のように聞き流したいところだが、当事者と

なっているので答えずらい。なんかぼろが出そうだし……

「僕は知りませんけど……テツ――こいつもさっき隕石のこと知ったばかりだし」

 と、佑馬が答えてくれる。おお、さっきの下手なやり取りも無駄ではなかったのか(笑)

これで俺は頷くだけですむ。別に佑馬は俺をフォローしたわけではなく、素で知ってること

全部話しただけだろう。一歩間違えれば俺を追い込むことになってたかもしれないが。

「そうか……ありがとう」

 白衣の人は納得したのか、また別の生徒に聞くために去っていった。こっそりとため息をつく。

でも本当に俺らのこと目撃してた人がいたらばれないだろうか……夜で暗かったから、誰かが

いるとはわかっても顔までは見えないだろうけど。一方の佑馬は、完全に他人事なので

適当なことを言ってくれる。

「なんか、大変そうだね」

「……まあな(俺が)」

 

 下駄箱のところで佑馬と分かれ、俺も教室へ向かおうとしていたところ。山藤の姿が俺の視界に

飛び込んでくる。山藤は俺を見つけると、本当に飛び込んでくるかの勢いで駆け寄ってきた。

この時期は2年も補習だから、彼女も学校にきているのだろう。

「テ、テツ……!」

「言って、ないんだよな?」

 周りを気にしながらも一応聴いてみる。山藤は首を縦に小さく2度振った。

「どうしよ、このまま黙っておいたほうがいいのかな……」

「こういう気分のままでいるんだったら、こっそりでも返したほうが気分はよくなるん

 だろうけど……あの娘がなぁ」

 持ってることを誰にも言わないでください……あおいという娘がそういった。その言葉を守る

義務はないのだが、言葉の真意を知らずに破るのもどうかと思った。もちろん、言葉の真意を

知らずに守るのもな。

「補習終わったら、彼女のところに行ってみるか」

「そ、そうね、場合によっては、あれ彼女に渡した方がいいかもね……」

 さすがに隕石を欲しがっていた山藤も弱気だ。こんなことなら初めっから……という考えは

もう遅いのであまり考えたくないことなのだが、やっぱり面倒なことに巻き込まれたとなると

愚痴の一つも言いたくなるなぁ……


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