散乱と侵入


 三樹男さんに会った次の日。いくら地球の危機(?)だからといってそれを理由に補習を

サボるわけにもいかず、今日も暑い中学校へ。まだ今日は少し雲も多いからマシか?

ふと昨日学校中に白衣の人が多くいたことを思い出し、また聞きまわっているのではないかと

想像していたが、構内に入ってみればそんなこともなく。一安心してグラウンドの方を

見やると……バンドクラブの部室前に人だかりが。一瞬白衣かと思ったがうちの生徒ばかりの

ようだ。何かあったのか?俺も行ってみよう。

 

 補習開始の時間までそんなにないのだが全力で走るのも汗まみれになりそうなので、

程よいスピードで駆けてきた。それでも汗ばむな……部室の前には、よく見た部活仲間が

10人ほど。その中には俺と同じ3年で部活を辞めた、宗谷っていう気の強い女子もいた。

とりあえず彼女に聞いてみることに。

「何で集まってんだ?」

「あ、タイト、何でじゃないわよ……見てよこれ!」

 まるで俺に怒っているかのような口調でまくしたててから、部室の中を指差す。部員の影で

よく見えないが、見える範囲で演奏に使う譜面やらが散らばっていた。オイ、それは……

「部屋中ひっくり返ってんの!誰かが荒らしたのよ!!」

「…………」

巫琴 & 藍子

 思わず言葉が出なくなる。というのは荒しとかじゃなく……むしろ荒らしたのが俺と山藤だと

いうことに。昨日片付けるはずだったのが、あおいちゃんの家に行ってたので忘れてた……

今日は部活をやる日だから、下級生が来て見つけたのだろう。……これって正直に名乗り出た

方がいいのか?山藤ならこんなとき、笑いながら謝るんだろうが、彼女はまだ来ていない。

「楽器も投げ出されて!壊れたら修理費バカになんないのに!!」

「実は……え?」

 せっかく勇気を出して一人で謝ろうと思ったのだが、宗谷の言葉を聞いてひっかかる。

いくら散らかしたとはいえ、楽器は大事だから元の場所に戻したはずだ。それなのに

投げ出されてるって……?

「ちょ、ちょっといいか」

 部員の間を縫って部室に入る。そこは、一昨日俺たちが散らかした以上に荒らされていた。

棚の1つが倒されているのが目につくくらいだし。そりゃこんなの人がやらなけりゃ、

さもなくば地震くらいしか……って、

「なあ、隕石が落ちたときの衝撃とかじゃないのか?」

 俺らが散らかして部室を出た後に落ちたんだから、それは合点が行く、しかし言ってから、

他の散らかりようはやはり誰かが(というか俺らが)やったとしか言えないことに気づき、

ちょっと後悔する。だが。

「でも、カギがこじあけられてたのよ?!」

 その言葉は決定的だった。一昨日山藤がと鍵をかけたのをしっかりと見たはずだ。

そしてそれが壊されている……一昨日の夜から今朝までに誰かが侵入したのは間違いないだろう。

俺たちが散らかしたのは言えなくなってしまったが、ま、いいか……?

「どうしたの?」

 そこに山藤がやってきた。自分が散らかしたと言い出すとややこしくなりそうだったので

腕をつかんで集団の外に連れ出す。

「いたた……な、何なのよ」

「俺たちが部室を散らかしたあとに、別の誰かが部室に入って荒らしたみたいだ」

 さすがに山藤も驚いて思わず声がでないほど。補習開始前なので片づけするにも時間がなく

おろおろしている部員を尻目に、俺は言葉を続ける。

「一応俺たちのは黙っとこうな……そっちの方がお前にもいいんじゃないのか?」

「え、……うん」

 探し物が何なのか隠して言ってくれなかったことを思い出す。その意味を含んだ言葉を

察してか山藤はおとなしくうなづいた。

「でももし泥棒なら楽器盗むだろ、あの中じゃ一番高価だし」

 換金したら足がつく、とか考えたらそもそもバンドクラブになんか忍びこまないよな。

でもただの泥棒じゃないとすると……

「もしかして、昨日いっぱいいた……」

 山藤が見当つけたのは、多分俺が考えてることと同じだろう。白衣の人たち。あの隕石もどきを

探すのに手段も選ばず、勝手に家捜しするのも想像できる。ここは隕石が落ちたところから

一番近いところにある建物だからな。でもそんなところには隠したりはしなかったのだが。

「……私たち、疑われてるのかな」

「だから、それは黙ってりゃ」

「そうじゃなくて、白衣たちによ」

 山藤の言葉に思わずあたりを見回して白衣を探す。見つかって欲しくないものだったが、

ぱっと見た限りでは視野に入ってこなかった。だからといってもっと遠くで監視されていないとも

限らないのだが。

「あおいちゃん家に入るのを見られてなけりゃ、大丈夫だと思うけど……」

「あおいちゃ……照下さんね……」

 言い直した山藤の口調がちょっと怒ったように聞こえたのが気になったが、ちょうどチャイムが

鳴り響いたので我に返った。もう補習が始まる。一応真面目に出席しておきたいのでこの場を

離れることにした。部員の何人かも校舎に向かっているが、宗谷などはまだ部室前に残っている。

山藤は俺と部室とを何度も見比べて、結局俺と一緒に校舎へ走った。


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