始まりは夢


 あれから俺たちは、恋人同士になった。

 危険な状況で結ばれるカップルは長く持たないっていうけど、俺たちは前から意識しあって

いたんだし、それほど自分の身が危険ってわけでもなかった。だからかはわからないが、

とにかく俺たちは仲良くやっている。あの家族を救ってから、もうそんな危険なことは

起こらないだろう、と思い込んでいた。

 だが、本当の危険は突然やってくるものである。

 

 暗闇だった。何もないのかと見回せば、すぐ近くにあいつがいた。だが近づくことは

できない。暗闇の正体はがれきで、地震か何かで崩れた建物の下敷きになってしまったようだ。

季節は冬だったはずだが服を着込んでいるからだろうか(自分の姿すら見えない)、

それほど寒くはなかった。だがあいつはワンピース1枚しか聞いていないような、

寝巻きのままの格好のようだった。寒いだろうとなんとか暖めてやりたいが、

動けなければどうしようもない。おまけに声すら出せなかった。

「テツ……」

 唇が動いたか動いてないかの、かすかなあいつの声だったが周りが無音だったので

よく聞こえた。いつもとは違う口調を聞いて、危ない状態なんじゃないかとゾッとなった。

早く病院にでも行って治療してやらなければ、その前に俺が抱きしめてやらなければ……

なんとか体を動かせないかともがくが、そのたびにがれきが降って来て視界のあいつを覆う。

何でこんなに無力なんだろうか……渾身の力を振り絞ってあいつの名前を叫ぶ。

「あい……」

 ピピッ、ピピツ、ピピッ……

 

 今日もまた目覚ましの音で夢から目覚める。柄にもなく夜中2〜3時まで勉強していたので

まだまだ眠い。いつもならギリギリまでベッドで横になっているのだが、今日はそんなこと

やってられない。というかベッドではなくこたつで寝てしまっていたのだが。

 気づけば大学受験は目前だった。といっても毎日デートでデレデレしてて勉強をおろそかに

していたわけではない。むしろ成績が気になってデートに集中できないくらいだ。

……デートデートっていってるけどそんなにしているわけじゃないぞ(汗)。

 で、センター試験を明日に控え、今日は高校からセンター試験会場の近くのホテルに

受験生全員で泊まる。ギリギリまで勉強してすぐ会場に向かえるようにだ。勉強道具と

お泊りセット(笑)を準備してから、気を引き締めるためシャワーを浴び、制服に着替える。

重たい鞄を背負って玄関の扉を開けた。

「あ、テツ君」

 目の前でエレベーターを待っていたのは(ここはマンションの4階だ)、隣に住んでいる

同じクラスの列戸瞳由ちゃん。男子・女子の両方から人気で、特に俺は登校時もこうやって

よく会うので結構仲がいい。だが彼女と俺が付き合っているわけじゃないぞ。

彼女も俺のことを友達までとしか思ってないみたいだし、彼氏がいるって噂だしな。

「おはよう」

「おはよう瞳由ちゃん、いよいよだな」

 2人でエレベーターに乗って世間話、さすがに話すことは受験のことばかりだ。

彼女は俺より少し成績いいんだよな、大学もやっぱり上を目指すのだろうか……

俺はあいつとあんまり離れたくないから、県内の大学にしようかと思ってるんだけど、

もっと上を狙えるはずだって担任は言うし……それは話さなかったのだが、

彼女の話を聞いてあいづちを打とうとしていた。そのとき、エレベーターが大きく揺れる。

……ゴォオオオォン……

瞳由

 いきなり衝撃が来たのではなく、徐々に響いてくる感じだった。2人ともなんとか

立ってられる程度だったが、心配なのはこの揺れでエレベーターが止まらないかということ。

本番は明日だが、今日高校を遅れて皆と一緒にホテルに行けないのは面倒だ。

だが幸いにもエレベーターは故障せず、1階にちゃんと止まる。二人とも口を開けたまま

お互い目を合わせる。

「……ちょっとびっくり……」

 瞳由ちゃんが落とした荷物を手にとってエレベーターを出て行くのを見て、はっとして

俺も出て行く。地震が怖いわけではないのだが、ふと嫌なことを思い出したのだ。

なんとなく、あの時の揺れと音に似てるな、と。そして同時に、今朝の夢の断片も

頭によぎり身震いをするが、瞳由ちゃんに気づかれないように表情を作る。


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