目撃者


 三樹男さんが来たと思われる避難場所へやってきた。といってもそんなに大きくない

公民館で、ただ集まる場所という感じだ。でも毛布や水などは支給してくれるし、

医者とかもここに来るから来ないよりはマシだ。

 さっそく三樹男さんを探したのだが……ふと殺気を感じて振り向くと、医務スペースに

頭に包帯を巻いた荒井田が座り込んでこちらを睨みつけていた。流石に暴れだしたりは

してこないが……奴がいるということは三樹男さんがここに来たのは間違いない。

実際それらしい人を見たという人は何人かいたが、いつのまにかいなくなり、何処へ行ったか

知らないと皆は言う。

「そうですか……ありがとうございます……」

 残念そうながらもあおいちゃんは礼を言って、俺の方を見る。

「三樹男さんがわざわざ遠回りしなければ、俺たちがここに来るまでに逢ってたはずだよな

……どこに行ったんだろ」

「……やはり、一度御麻さんのところへ行った方がいいのでしょうか……」

 今度のことを2人で検討して、やはりその御麻という人のところに行こうと決まりかけた

そのとき、知ってる声がかかった。

「――テツ君じゃない?」

 手を振ってこちらにやってくるのは……住村瑠璃絵さんだ。俺は一時期コンビニで

バイトしていたのだが、同じバイト仲間の先輩でいろいろ丁寧に教えてくれた、

お姉さんという感じの人。知り合いがまた無事とわかって少し安堵する。

ちなみにさっき荒らされていたのを見たコンビニとは別の店だが、そっちも荒らされるのは

時間の問題だろう。ま、誰に責任があるものでもないが。

「瑠璃絵さん、無事でなにより」

「テツ君も。……その子は?」

 初めて見るあおいちゃんを覗き込むように見る。あおいちゃんは軽く礼をしただけだった。

「ああ、同級生の照下あおいちゃん。俺と一緒に行動してくれてるんだけど……」

 優しい瑠璃絵さんだからといってやはり細かいことまでは喋れず、ウソはつかない程度に

ごまかしておく。しかしその言葉足らずで、変に揚げ足をとられてしまうことに。

あおいちゃんに聞こえないように俺の耳元で小声で(ついでに笑いながら)、

「彼女いるのに、二股はしないようにね」

「ちっ……ちがいますよ!」

 否定して、確かにあおいちゃんはかわいいけどと思い直して、すぐさまあいつの顔が浮かんで

……俺がバイト辞めたあとも瑠璃絵さんはバイト続けてるんだけど、あいつと一緒にその

コンビニに寄ったことがあったっけ。それで瑠璃絵さんにひやかされたこともあったな。

「でもほったらかされたらかわいそうよ?」

「ほったらかすも何も……探してる段階で」

「でも、さっき見かけたけど」

 たじたじになりながら瑠璃絵さんの言葉に返事して……え?

「……み、かけた?」

「うん、向こうは気づかなかったみたいだけ――キャッ」

 いい終わるか終わらないかで、俺はおもいきり瑠璃絵さんの肩をつかんでいた。

驚いている彼女にも構わず叫ぶ。

瑠璃絵

「どっ、どこで見たんですかっ?!」

「えっ、駅前の大通りでっ……い、痛いよ」

「……タイトさん……」

 あおいちゃんに制されて、俺も手を離す。だがまだ冷静ではいられない。駅前の大通り?

あいつの家と逆方向じゃないか、なんであんな所へ……

「……ふう、駅のほうはあまり隕石降ってないみたいだから、そこへ避難したんだと思うけど

……私も迷ったんだけど、あの辺ビルがいっぱいだから、崩れてきたら危険だと思って」

 瑠璃絵さんと別れて、公民館を出た。その間に俺は移動先を決めていた。そこしかない……

声を高ぶらせて、あおいちゃんに告げる。

「駅に行こう」

「……ダメです」

 まさか否定されるとは思いもせず、彼女の方を見やる。俺のほうをまっすぐ見て、

「冷静になってください……隕石を止めることを優先すべきです」

「冷静?なれないよ!今は駅周辺は無事だとしても、次降ってくるときは……

わかったもんじゃない!」

 後で思い返せば、普段の俺とは思えないほどの動揺ぶりだった。大事な人のことを思えば、

本当に自分を捨てられるんじゃないかと思えるくらいに。

「大事な人なのはわかります……でも今は多くの人を守るためにも、早い解決が……」

「じゃあ、あおいちゃんだけ御麻って人のところに行けばいいじゃないか!

俺は一人で行くよ、あいつが待ってるんだ――」

 そう言って彼女の返事も待たずに駆け出そうとした。したというのに、リュックが引っ張られる

感触がある。彼女が普段の力とは思えないほどの握力で、行かせまいと握っていたのだ。

「……離せよっ」

 振り払うために体を横に振った。彼女の手からリュックが離れ……一瞬俺の体が

彼女の方を向いた、次の瞬間――

パンッ


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