御麻邸


 御麻さんの家に付く直前というところで、また隕石が降ってくる。「石」のお陰で

俺たちの近くには降ってこないが、駅のほうに落ちてないかと思わず振り返る。

だが念じてもどう変わるというわけでもなく、さらになんとなくあいつは無事だと

思えるようになってきた。俺も落ち着いてきたということか。

「ここです……」

 あおいちゃんが足を止め、ある一軒家の方に目をやる。他の家と比べても何の変哲もない

(初めの隕石で近くにクレーターは見つけたものの、見た限りでは民家に直撃していると

いうのはなかった)、よくある普通の家だ。この家の地下にシェルターがあるなんて、

知らない人は誰も思わないだろう。表札の「御麻」の字が目に入った。

 2人して敷地内に入り、あおいちゃんがインターホンのボタンを押す。すぐに家の中の

スピーカーと繋がり、男の人の声が聞こえてきた。

『――どなたでしょう?』

「照下あおい、です……」

 向こうはあおいちゃんのことは多分知っているだろう。面識がなくても苗字でわかる。

俺も名乗った方がいいかな、と思い声を出す。

「タイトテツっていいます」

『ああ、照下博士の娘さんと、例の……今行きます』

 そういって声が途絶え、彼は玄関を開けにやってくる。「例の」というのは、

この前の夏に三樹男さんたちと関わった人物、ということだろう。俺たちがいなければ

三樹男さんはこの仕事に復帰していなかったくらいだから、助手の彼にも名前を言っていたに

違いない。そう考えているうちに、玄関の鍵が開く音がした。

「よく来ましたね」

 扉の向こうにいたのは俺と同じか少し背の低い、メガネをかけたやや長髪の男性だった。

散髪に行く暇がないのかロン毛っぽくて無精ひげも出ている。色は白いくて研究のため

家にこもりっきりと思わせるが、細身(ガリガリ)というわけでもなく、中肉中背といって

差支えがない。そして丈の長い白衣を身にまとっている。夏に研究所の人たちを学校で

たくさん見たが、皆白衣を着ていたので制服なのだろうか。もしかしたら夏に彼を

見かけていたかもしれない。

「キミは――多分初めて会うと思うから一応自己紹介するよ。御麻暮郎(くれお)、

照下博士の助手として『あの』人工衛星を開発しているチームに参加している」

 立ち話もなんだからと家の中に招かれたあと、温かいコーヒーを一杯もらう。

寒い外だったので暖房の効いている部屋はやはりほっとする……家の中を見渡せば

普通の家と変わりなかった。(三樹男さんが仕事している方の)照下邸も同じようなものだった。

ただ一人暮らしするのにはちょっと広すぎるような気がする。俺があまりにきょろきょろ

するのを見て察したのか、御麻さんは自分のコーヒーカップを口から離すと

「生まれたのはこの家なんだけど、兄弟もおらず、両親も若死にしちゃってね。

嫁さんの1人や2人でもいてくれりゃ淋しくないんだけど」

暮郎 & あおい

 2人はありえんだろ、と突っ込みたかったが自分のせいで気まずい話になってきたので、

はぁ、とただ相づちを打つしかなかった。

「御麻さん、そろそろ……」

 先にコーヒーを飲み終えたあおいちゃんがせかすように言うので、御麻さんはうなづいて

席を立つ。それを見て俺は急いでコーヒーを飲んだ。彼についていった先は地下へ降りる

螺旋階段……地下4〜5階に相当するぐらい下りていった先に、分厚そうな扉が見えた。

御麻さんが丸い取っ手を回して扉を開ける。

「ここが私個人の研究室です」

 部屋全体の大きさとしては俺のマンションの部屋(8畳くらい)の約2倍といった感じだが、

色々なものが置かれているので実質かなり狭い。本棚は3つくらいありそれぞれにぎっしり

本がつまっている。作業をする机の上にも山積みにされていて、同じ机にあるパソコンが

埋もれそうだ。

 ベッドは1台だけあったが、その下には10人分くらいの毛布が用意されていて、

やはりシェルターとしても使えることを実感。蓄えられている食料も10人で2週間分は

あるという。そこまでこもらなければならないことにはなってほしくないが。

 しかし見てもわからないようないろんな装置が運び込まれているので、5人くらいしか

横になれそうもない。そしてその狭いスペースにさらに俺たちが腰掛けて話せるテーブルと

椅子を広げたものだからもっと狭くなったのだが、別にここに泊まりに来たわけではない、

今後の対策を考えに来たのだ。俺たち3人は再び向かい合って座った。


Next Home