心当たり


「照下博士とはぐれてしまったのか……」

 俺たちが今まで何をやっていたかを御麻さんに告げると、彼は1つのトランシーバーの

ようなものを取り出した。前に見た、隕石を落とす衛星への発信装置にも似ている気がしたが。

「これは衛星を介して、相手と会話ができるトランシーバーだから、電話線が断線されていても

問題ない。だが衛星の方で信号を拒絶されているから使えない……どうやら誰かが衛星を

操っているのは間違いないな」

 御麻さんはため息をつきながら、テーブルに地図を広げる。どうやらこの街一帯の

地図らしいが、いたるところに赤ペンで×印がついている。俺のマンションの近く、

橋を渡ったすぐのところにも×印があるのを見て、なんとなくその意味がわかった。

「これは――隕石が落ちた場所ですね」

 俺の言葉に御麻さんはうなずき、

「ああ……辛うじて衛星がここに隕石を落としたというログ(記録)は送られてくるから、

それを元に書き込んでみたんだ。これを見てわかると思うが――」

 地図上にはまばらに、ほぼ均等に×印が書き込まれていた。一見してランダムに

落とされているようだ。つまり無差別にということか……いや一ヶ所だけ、穴があいたように

×印が書かれていない地帯があった。駅前周辺、一番大きなビル(といっても10階建て)を

中心に、隕石の被害を受けていない。一番人が混雑する場所なんだからここが狙われるのが

普通だと思うのだが?御麻さんはそこを指差し、

「駅周辺には隕石が落とされてはいない。これが何を意味するかというと……ここに、

隕石を落としている張本人がいるかもしれないということだ」

 そうか、いくら破壊しまくるといっても自分まで巻き込まれてしまったら意味がないものな。

俺はそれで納得しかかったのだが、あおいちゃんが疑問を掲げる。

「でもどうしてここなんでしょう……?目標からもっと遠くにいてそこから操作した方が、

居場所はもっと掴めないはずでは……それに隕石を落とす動機は何なのでしょう……」

 それももっとも……わざわざ「台風の目」みたいなところにいなくてもいいのに。

ただ近くで皆が逃げ惑う様を見て楽しんでいるだけなのか、それとも駅前でなければ

ならないという理由があるのか――そう俺が考えたことを告げてみた。すると御麻さんが

うつむいて、

「実は……さっき『誰かが衛星を操っている』と言ったが、もしかしたら私が知っている

人物かもしれないんだ」

 いきなりの告白に俺とあおいちゃんは驚いて顔を見合わせる。そういうことは先に言って

ほしいことなのだが……確信をもてぬまま簡単に名前を挙げるのはやはり心苦しいのだろうか。

「それは――研究所の知っている人とか」

「いや……ああ、そうなるな……」

 俺の質問にあいまいな返答を返す。もう少し問い詰めようと思ったが、そこはあおいちゃんに

制される。御麻さん本人が言おうとするタイミングで言うべき、と思ったのだろう。

彼は立ち上がると大きな背伸びをして深呼吸。俺たちに背を向けたまま語りだした。

「……私の甥に、御麻至(いたる)という若者がいる。彼はよく私の家に遊びに来て、

私によつなついてくれた。大きくなったら私と同じ仕事をしたいとも言っていた――」

 聞いていて、もしやその至という人が……と言いそうになったが、沈黙を守る。

「やがて彼は大人になり、本当に私と同じ道を目指した。普通なら幼い頃の夢など

忘れてしまうものなのだが――その点は私も誇りに思えた。」

 俺の幼い頃の夢といえば……なんだったろうな、やっぱり親父と同じ職業につきたかったの

だろうか?今はそんなことは全然思いもしないが。

「しかし聞いてみれば、彼には支えになってくれた人――彼女がいたという。

稲瀬蓮華(いなせれんげ)という名前だったか……至の1つ下でかわいい娘だった」

至 & 蓮華

 ふとあいつの顔を思い出し……あいつも俺の夢を応援してくれるだろうか。そしてあいつの

夢を俺は応援できるのだろうか。そして――彼女のことを言っているのが、過去形なのに

気づいた。と同時にあいつの顔まで遠ざかっていくような気がして……今朝の夢まで思い出して

血の気が引く音が聞こえてきた。そんな俺の表情は全く見ず、御麻さんは話を続ける。


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