不意の目覚め


 ――バタンッ

「……いっ痛ー……」

 顔面に衝撃を受けて目を覚ます。……あれ、いつの間に寝てたんだっけ?起き上がろうと

するが頭も体も重くて思うように動かない。何とか目をこじ開ければ視線の先に、テーブルに

座ったまま眠っているあおいちゃんの姿が。彼女まで寝てるのか……朝から走りっぱなしで

疲れてたものな、ゆっくり休んで――

あおい

「……!?」

 そこで思い出して、一気に目が覚める。俺たちは御麻さんの家に来てたんだ。彼の甥の

至という人が隕石を降らせた張本人で、彼は駅前のビルにいる……そこまで話を聞いたのは

覚えている。しかし出発するまでもなく、俺たちはこうやって眠ってしまっていた。

しかも――御麻さんの姿はない!

「あおいちゃん、起きるんだ」

 肩をゆすって起こしてみる。彼女は重いまぶたをこじ開けるように目覚めた。これはきっと

睡眠薬か何か入れられていたのだろう。あの昼食に――そこで自分の腕時計を見る。

午後4時20分……4時間近くも眠ってしまったことになる。そして彼が自爆する予想時刻、

5時46分まで1時間半もない……!

 俺はシェルターの出口の扉に走り寄って……ちょっと予想はしていたが、扉は動かない。

外からロックがかけられているようで……閉じ込められてしまったのだ。シェルターだから

通気口などはちゃんとあるだろうから窒息の心配はないが、今動けないのは非常にまずい。

せめて外に連絡はとれないかと振り返ってみると、

「タイトさん……これ……」

 ふらふらしながらあおいちゃんが、なにか紙切れを手に持っている。それはテーブルに

置かれていたもので、ワープロで打たれた本文と、最後に直筆のサイン――御麻さんが

書いたとわかるものだった。

『2人を閉じ込めてすまない、しかし至の気持ちも汲んでやって欲しい。私は彼のやることを

温かく見守ってやろうと思う。そのシェルターは例の時間になれば自動的に開くように

設定しているので心配しなくてもいい。』  そこまでがワープロ打ち。そして思い出したように直筆で、

『そう、照下博士も少しの間眠ってもらうことにした。6時を過ぎれば薬の効き目も

切れるだろう。その頃には至や私は――  御麻暮郎』

「お父さん……」

「……くそっ!」

 俺はテーブルを殴りつける。なんで甥のやることに協力してるんだ?そりゃもう隕石が

降ってくることはなくなるだろうが、それは大きな犠牲と共に終わるってことだ。

至さんにしてみれば他の人の何百人の命をもってしても蓮華さん一人の命にかなうなんて

ことはないとしても、一人の犠牲のために何百人も犠牲になっていいわけじゃない。

冷静になって考えればそうじゃないか……

 ふと俺はデジャブに襲われた。前にもこんなことを考えたような気が……ああ、

あおいちゃんの弟・正輝が隕石の実験で意識不明になったとき、照下父娘は研究所に

隕石で復讐しようとしたんだっけ。それを俺とあいつで止めて……そうだ、あいつが

あのビルにいるかも知れないっていうのに!

「ごめんなさい……あの時駅のほうに行っていれば……」

 あおいちゃんが午前中に俺にビンタしてまでこちらに来させたことを謝っている。

「いやこれはあおいちゃんのせいじゃないよ、それに事件の真相は聞けたしね」

 とにかくここから脱出することが先決だ。しかし出入り口は1つ、力ずくで開くような

扉じゃない。やはり外から開けてもらうしかないが……誰かと連絡はできないか。

パソコンのネットワークが壊れていなければいいのだが、普通に外の回線が切れていれば

意味がない……

 ピンポーン

 と突然、インターホンがなる音がした。誰か来たのか?!

『御麻!御麻はいるか!!』

 怒ったように大声を出して名前を呼んでいるのは間違いない、三樹男さんだ。眠らされたと

書かれていたが、そちらもなんとか目を覚ませたのだろう。あおいちゃんがインターホンに

対応している。

「お父さん……」

『あおいか?無事なのか?!』

 娘の声がして、驚きと心配の口調になる。

「うん……眠らされてたけど……」

『そうかあおいもか』

 やはり三樹男さんも眠らされてたのか。しかし眠らせるだけということは、本当は御麻さんも

悪い人ではないはずなのだが……俺もインターホン越しに三樹男さんに呼びかける。

「三樹男さん、俺もいます」

『おおテツ君か、大丈夫だったか』

「はい……そんなことよりシェルターの中に閉じ込められたんです。外から開けてくれませんか」

『何……よし今すぐ行く、待ってなさい』

 そう言うとしばらくして玄関をぶち破るような音が聞こえてきた。これでようやく

出られるかな……


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