アクセル全開


「……ダメだ、開かない」

 扉の向こうで、扉のロックを解く暗証番号を入れたはずの三樹男さんがうなる。

入れ間違いかともう一度入力してみるが、やはり扉の反応はない。

「奥さんの誕生日のはずなのだが……やはり変えられているか」

 てことはよくある「4ケタの数字」が鍵になっているのか……0000から試していくと

最悪10000回かかる、1時間半で入れられるはずがない。また誰かの誕生日なら

366通りだが……奥さんの誕生日?

「三樹男さん、御麻さん結婚してたんですか?」

 上でコーヒーを飲んでいた時には結婚してないような口ぶりだったから、今の三樹男さんの

発言とは矛盾が。どちらが間違っているのかは次の三樹男さんの言葉ではっきりすることに。

「ああ……だが私と出会う前に、交通事故で亡くしているらしい」

「交通事故……」

 その言葉にあおいちゃんが反応。もちろん俺も……彼の甥、至さんの彼女が同じように

交通事故で大事な人を失ったと知り同情、いや同調してしまったのだろう。そしてこの計画を

手伝い、邪魔になりそうな三樹男さんや俺たちを足止めして……

「お父さん……『0117』って入れてみて」

「? わかった」

 あおいちゃんに言われるままに父親が数字を押す……カチッっという音がして扉のロックが

外れた。遅れて扉が開き、少し驚いたような表情をした三樹男さんが現れる。

「よくわかったな……1月17日、というのは今日のことじゃないのか?」

「うん……今日は御麻さんの甥の、亡くなった彼女の誕生日だから……」

 

 外に出るまでの間に、御麻さんに聞いた話を要約して話した。もちろん5時46分に

駅ビルに隕石を落として終わらせようとしていることも。三樹男さんの方はというと、

荒井田を送った帰りに御麻さんと出会い、クロロホルムか何かで眠らされた後車で運ばれ、

どこかの家の倉庫に縛られて閉じ込められていたとのこと。たまたまそこの家人が帰ってきて

倉庫を開けたので、御麻さんの予定より早く目覚めることができたということだ。

「とにかく駅だな……やはり車を借りて正解だったな」

 三樹男さんのその言葉を聞きながら玄関を出ると(本当にぶち破ってはいったらしく

扉の破片がそこらに散らばってる……)、小さな車体の4WDが着けてあった。

閉じ込められていた倉庫のその家にあった車らしい。3人は急いでエンジンをかけっぱなしの

その車に乗り込む。三樹男さんが運転席、あおいちゃんが助手席、俺が後ろに。

「飛ばすから、しっかりシートベルトを締めてつかまったなさい」

 自分のベルトを締めながら三樹男さんが俺たちに言う。後ろの席ってあまり

シートベルトしないんだけど、このときばかりはしっかりつける。あおいちゃんも

ベルトをしてうなづくと、三樹男さんは一気にアクセルを踏んだ。

 誰も何も走っていない大通りを、時速100km近く出して1台の車が走る。

だが隕石の衝突した破片が散らばっていたりと危険なものがないわけではない。

タイヤでじかに踏まないようにとハンドルを切るたびに俺たちは大きく横揺れする。

車酔いするいとまさえないくらいだ。

 そういえばあれから隕石はまた降ってたんだよな、行きには見なかったクレーターとか

増えてるし。だが今は降っている様子はない、きっと「最後の」充電に入っているのだろう。

「お父さん、前……!」

 あおいちゃんが蒼ざめて指をさす先には、道路の真中に直径150m位のクレーターが薄く、

といっても一番深いところは4〜5mくらい差があるんじゃないか?ここを迂回していくと、

駅に行くにはかなり遠回りになってしまう。それを見越してここに落とされたのかは

定かではないが。それを見た三樹男さんだが、スピードは緩めなかった。

「一気に行く!しっかりつかまってろ!!」

三樹男 & あおい

 怒鳴るような言葉に俺は前の座席を横からつかんで姿勢を低くすることで返事に代えた。

砂利がタイヤと車体の間で跳ね回るような音がだんだん大きくなってきたと思ったら、

前からガクッと車体が下がる。そしてグラグラの地盤の上を走っている感覚に襲われる……

 しかし数秒すると今度は車体が前上がりになり、足元のがれきがすべらせるように

タイヤを空回りさせようとする。しかし既に勢いのついた車は一気にクレーターを駆け上がり、

最後は数十センチ、元の道の高さから飛び上がり、そしてドスンと落ちた。その衝撃が

一番大きなものだったが、なんとか皆無傷で済んだ。そのまま何事もなかったかのように

車は駅へと向かう……もうさっきのクレーター越えはこりごりだが。


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