がれきの上で


「……九死に一生、不幸中の幸いってとこか」

 助け出される中、俺はそうつぶやいた。

 まもなくして三樹男さんたちが、俺たちにかぶさっていたがれきを取り除いてくれた。

がれきの量は意外に少なかったのですぐに脱出することができた。もっとも、がれきが多ければ

掘り出す前に圧死してただろうが。

「頭から出血があるな……どこか痛いところは?」

 まだがれきの上に横になったままの俺に、三樹男さんが心配そうに聞いてくる。

目だけ動かせば救急箱を持ったあおいちゃんと、手を握ってくれている藍子。

俺は体の各部分をゆっくりと動かしてみて、

「左肩と……右足の腿が少し痛いですね、折れてるって感じじゃなさそうですけど……」

 今すぐ歩けるって感じではないが、動かさなければ痛くない。骨よりも打ち身の方が

ひどいということか。あおいちゃんと藍子が2人して俺の出血部分に包帯を巻いてくれる。

藍子自身の怪我はもう処置されていた。

 一通りの手当てが済む頃、がれきを踏み分ける音が聞こえてくる。頭をゆっくり動かせば

至さんが斜めになって(いるように見えて)歩いてくる。その向こうには暮郎さんも見えた。

至さんが俺の足元で立ち止まる。

「今日初めて……『死ななくてよかった』と思ってるよ」

 対象は「他人」なのか「自分」なのかあるいは両方か。いずれにせよ彼は俺が生きていて

嬉しいと思ってくれている。それは彼の心が変わったということだ。俺はほっとして……

その瞬間彼のしたことを思い出す。彼に事情があったとはいえ世間的には許されないことを

しでかしてしまっている。生きて償うということが彼にとって本当にいいことなのか、

俺にはわからなかった。でも至さんは答えを出していたようだ。

「これから出頭するよ。まああれが人間がやったことなんてにわかに信じられないと

思うけどね。説明する課程で衛星のことを言わなくちゃならないけど……」

 至さんは言いながら三樹男さんを見た。公にしてしまえば、きっと衛星の研究は

止めさせられ、衛星も機能を停止させられるだろう。それでも承知したのか、

三樹男さんはうなずいた。

「やろうと思えば他の方法でも代用がきくものだった、これは私たちのミスでもあるな」

 本来はエネルギーを作り出すための人工衛星。そのエネルギーが凶器となって

降り注いだのが今回の……いや前にもあったし、これからも起こるかもしれない。

それを未然に防ぐには、やはり衛星の撤去か……

「オレが暴走しなければ――いや言いわけはよそう。……もう行くよ、最後に」

 振り向こうとして、俺と藍子の方に顔を向ける。すがすがしい顔だった。

「二人とも、俺と蓮華の分まで幸せにな」

 そう言って歩き出した。暮郎さんのところまで歩いていくと何か話しているのが見える。

彼も一緒に行くのだろうか、至さんを手助けしたというのも罪になるのか……?

そうでなくとも衛星関係者はみんな世間から白い目で見られるんだろうな……三樹男さんも、

その家族のあおいちゃんたちも。

 あおいちゃんの方をチラッと見てみた。至さんの方を向いていて、さらに暗いので

表情がよくわからない。でも、悲観しているようには見えなかった。未来を見ている、

そんな目をしていた。

「……幸せに、なれるかな」

 藍子がぽつりと言った。ただ単に2人が結ばれるということではない、

俺たちの生きる周りの人みんなが幸せでいてくれることも、俺たちの幸せだから。

俺は藍子が握っている手を強く握り返し、

「なれるって。……これからの生き方次第でな」

 この場で寝てても寒いだけなので、そろそろ立ち上がることにした。三樹男さんと藍子の

両側から肩を借りてなんとか真っ直ぐ立つ。あのビル――「コメットビル」の方を

振り返り……何も無いので拍子抜けする。隕石がビルを直撃し、そのがれきの量が多いので

クレーターをがれきで埋め尽くされたか、地面まで隕石が到達していないかで、

どの辺にビルがあったかわからないくらいだった。一面がれきだった。

「…………」

三樹男 , あおい & 藍子

 思わず無言になる一同。まるで映画のワンシーンのような、非現実的な風景。

でも現実は、これから過酷な生活を送らなければならない人たちもいる。

家族を失った人もいる。生きる気力さえ失った人も――でも生きていかねばならない。

また悲劇を生み出さないために、第二の至さんが現れないように……


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