火事場


 一番近い避難場所は歩いて15分ほどの場所、俺たちの学校までは25分ほどだ。

普通なら近い方へ行ったほうがいいのだが……

「できれば、学校の方へ向かってもらいたいのですが」

 俺に背負われている四季さんがそう言った。学校の近くに親類の家があって、

いち早く合流したいとのこと。もちろん俺のことも気遣ったが、俺は快諾した。

内心俺もそちらに行きたかったのだ、こっちはあおいちゃんの家と逆の方になるから

会えないだろうし、一旦彼女らを近いところに避難させてからまた戻る、というのも

時間的にもったいない気がした。学校に俺の荷物を置いてあるからというのもあったが。

 佑馬も母親のことが心配だろうが、それよりも七希菜ちゃんのそばにいたいという方が

強いのだろう。彼女が背負っている重いリュックを替わりに持ってあげるなど気を遣っている。

さすがに2つは重かったので、佑馬が先に持っていた軽い方のリュックは七希菜ちゃんが

背負うことになった。

「でも、どうしてこんなことに……」

 隕石が落ちてところどころ破壊されている街並みを見ながら、七希菜ちゃんが悲しそうに言う。

普通の人なら、隕石群が地球の軌道内に入ってきた、自然災害だから運がなかった、

と思うしかないだろう。しかし実際は人為的なものである。それを訴えたいのではあるが、

喉元のところでそれを押さえつける。

 また隕石が落ちた。初めの頃よりは落ちる数は少なくなったかもしれないが、1分に1つは

落ちているのだろうか。考えてみれば、初めの頃のあの間隔だと、県外とかにも落としてるとは

言えないかもしれない。というのも前に三樹男さんに聞いた話では、人工衛星が

隕石を落としてから次の隕石を落とすまでに15秒以上はかかるらしい。とすると多くても

1分に4つだ。1個ずつ落としているから他の遠くの場所へ落としたなんてことはありえない。

間隔が広がった今なら、遠くへも落としているのかもしれないが。

 などと考えながら歩いていると、進路前方7〜800mあたりに隕石が落ち、かなり大きな

震動が来る。よろけそうになるが、四季さんを落とさないようになんとか踏みとどまった。

衛星が、あまり大きな隕石を落とせないように設計されてるのが救いか……それでも

半径200m以内は危険だ。

 やがて歩いていくうちに、その隕石の開けたクレーターが現れてくる。民家の一つに落ち、

その家は全壊。隣近所の家もかなりの被害を受けていた。やはり家にいるよりは避難した方が

安全ということか……

 と、人影らしいものが見えた。住民は皆避難してるはずなのだが、誰か残っていたのだろうか。

もしかしたら怪我をしているのかもしれない、確認しに行きたいが俺は四季さんを背負ってるし

……佑馬に行かそうと思ったが、言う前に七希菜ちゃんが自分から前に進んだ。

「あの、誰かいるんですか?」

「七希菜……!ダメ……」

 『彼女のことをよく知っている』母親の四季さんが止めようとしたが、その前に人影が

姿をあらわせた。若い男のようで、多分俺より背が高いだろう。そして顔は……赤黒かった。

ペンキを頭からかぶったような、冗談のように見えたが、もちろんそうではない。

放っておいたら危険だとわかるくらいの、出血をしていた。

「ひっ……」

 俺が理解するとほぼ同時に、七希菜ちゃんが妙な声を上げてその場にくずれおる。

そうだ、七希菜ちゃんは血がとんでもなく怖いんだった……佑馬が慌てて彼女のそばに

駆け寄る。おいおい、背負う人が2人にもなったら荷物どうすんだ……

「お前……タイト?!」

七希菜 & 三郎

 出血している人物が俺の名を呼んだ。そして俺はその声を聞いた覚えがあった……

俺が知っていて俺より背が高い若い男――気性が荒く高校ではよく暴れて問題児、

とある理由で俺とも何度か喧嘩したことがある、一学年上の荒井田だ。高校を卒業してからは

進学したか就職したかなんて知りたいとも思わなかったが……少なくとも家の方向は

こっちではないと知っていた。そして奴の手には半開きの鞄が。

「荒井田……まさか泥棒……」

「……ちっ!」

 俺が言うや否や、気づかれたかと足元にあったがれきを拾ってこちらに投げつけてきた!

俺に向かって投げたのは外れてたのでかわすまでもなかったが、近くにいた佑馬の方へ

投げたのは、丁度頭に向かって飛んできた。


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