UFOキャッチャー


 今日もゲーセン。つーかビーマニ。毎日行って金はあるのか、というと、親のおかげで

小遣いは高校生の平均以上を持ち合わせてある。あまりスネをかじりすぎるのはよくないが、

まだ高校生だし、甘えることにしよう。

 一通りやったが、そう簡単には上達せず。特にSP B4U(A)は2P側の方が1P側より難しいと

言われていて、俺も2P側なのだがすぐに矯正できるわけでもなく、意地になってやっても

最後の2小節で減ってクリアできず、となる。FREEで何度もやりたいがギャラリーも

気になるので7keyの最後にもっていくぐらい。で3曲目でChecking You Outなぞ選んで

死んだりして……

 いいかげん疲れたのでそろそろ帰るか。そういえばヘルコースの彼女は来なかったな、

俺みたく毎日のようにゲーセン通いしてるよりはいいけどな。

 ここのゲーセンの外側にはUFOキャッチャー(どうにかならんかこの呼称……)が並んでいる。

実は親父の漫画のキャラが人形になって入ってたりするのだが、それは実家の方に大量にあるので

もう見飽きた。それが友達に見つかったら親父の仕事がばれるのだが、今だに実家に友人を

招いたことがない。だから人形置きたい放題になっている。

 まあこの日も素通りしようと思ったのだが、箇体の前で中を凝視してる女の子――制服からして

同じ高校生みたいだが、この子俺がゲーセンに来た時もいたような……てことは2時間くらい

ずっとここに?! でも人形はひとつも取っていなければ、財布も出してないので見てるだけ

なのか、それとも金が尽きたが諦められないのか。そんなに欲しい人形があるのかね、だったら

店員さんに売ってもらえばよかろうに……俺は隣の箇体をチラッと見た。

「……っと!?」

 と、トランだ! ビーマニキャラのトランが人形になっていたとは……なんかめちゃくちゃ

欲しいぞ、剣を持ってる士郎や水着セリカの人形よりも。しかもよく見れば、トランの1つは

取り出し口に半分落ちそうな位置にある。これは……店員は見てないな……? 何気なく距離を

確かめるふりをして、箇体をつかんでゆっくりと、しかししっかりと揺らす――落ちた!

もくろみ通りタダでトラン人形ゲットだぜ!(ぉ まあ金はあるんだけどね、得した気分

ってのは味わいたいものでしょ。

「………………」

 視線を感じて、冷や汗を浮かべながら振り向けば……さっきからいた彼女だった。何も言わずに

(とがめるわけでもなく)じっとこちらを見ている。俺の行動を見てたわけか。そりゃ隣にいたん

だしな。店員に見つからないだけマシだし。

(シー(^人^;)

 苦笑しながら『黙っといてね』のジェスチャー。彼女は少しだけうなずいてくれると、また

自分の前の箇体を見つめる。……なんだ? やっぱ何か欲しいんじゃねえか?

「何見てんの?」

 ふと声をかけてみた。普段は女の子に声などかけるはずないのだが、今の出来事でなんとなく

親近感ができてしまった。それに彼女は、俺以上に無口そうだから。

「……あれ」

 彼女が指差したのは――なんだありゃ? 異様に丸い物体があるんだけど……本当に球体で、

これがなんかのキャラとかであるはずがなく、ただのオブジェ(ビーマニとは関係ない)にしか

見えないものである。しかし材質は布で、中に綿が入ってそうだ。

「あれが欲しいのか?」

 彼女はまたこくりとうなずく。あれが欲しいとは物好きかも……そんな彼女に声をかけた

俺も物好きか。こうなりゃ最後までつきあってやるか。

「俺が取ろうか」

 言うが早いか100円を投入。これって何となく何でも取れそうな気がして取れないものだ。

だから駄目で元々でやれば何とかなるんじゃねえか?一応アームの位置はピッタリ球体の真上。

しかし滑るんじゃねえのかコレ……ほらやっぱり――

「……おっ?!」

 何と、球体からのヒモがアームに引っかかって浮いている!そういう技もあるが、それにしても

やっぱこの球体が商品だというのが不思議でならん。アームは取り出し口の上で開くと、丁度

ヒモが外れて球体は落ちてきた。普通は引っかかったままになるのに、ギリギリだったんだな(^^;

あおい

「ほら、あげるよ」

 球体を見て、俺を見て。ぼーっとした感じの彼女ははっと気づいて(顔は変わらず)

「あの、お金……」

「いいっていいって、コレ口止め料だから」

 ……言って我ながらダサい台詞だなと思った。そりゃ下心があったわけでもないし別にいいん

だけどさ……つーか「料」じゃないし。

「……ありがとう」

 球体を両手に持ってゆっくりお辞儀をすると、そのまま後ろに向いて歩いていった。なんか

ずっと表情が変わらなかったんですけど……漫画じゃあの手のキャラが人気あったりしてな、

たまにボソッというだけで嬉しがるファンたち、とか。

 また変なこと考えながらもトラン人形をしっかり持って家路に着いた。


Next Home