針井家次男


「どーも、ワザワザ来てくれてありがとーネ」

 玄関では、針井の母親、セユネさんが流暢な日本語で迎えてくれた。西洋人から見た東洋人は

皆顔が同じと言われるがその逆もありうる。しかしそうだとしても、セユネさんはハリウッド

映画の女優みたく美人であった。……まあ一般論で、俺が彼女に惚れたというわけではないことを

一応言っておく。

「CoffeeとTea、どちらがいいかしら?」

「あ、俺はコーヒーで……」

ちょっと、遠慮しときなさいよっ

 ととっさに宗谷が止めにかかる。って俺たちが約束も無しでいきなり来たらそりゃ遠慮はする

だろうが、あちらが俺たちを招いたのに、断わる義務はないと思うのだが……宗谷の小声が

セユネさんにも聞こえたのか、苦笑しながら

「大丈夫ですヨ、pie を焼きましたから皆さんで召し上がるためのdrinkです」

「あっ……じゃあティーの方を……」

 ガラにもなくおどおどしている宗谷。さすがに針井の母親に「地」を見せるわけにはいかず、

何とか隠そうとしてるんだな……努力は認めるが、その地は針井から母親に伝わってる可能性も

少なからず。

 

「へえ、佐龍さんと同級生だったんですか」

 リビングらしきところでセユネさん、惟音さん、宗谷、俺とテーブルを囲んで談話。佐龍さん

というのは佑馬の3つ上のお兄さんで、アマチュア大会で何度か優勝するほどの将棋の達人。

その彼と惟音さんは同じ高校に通っていたらしい。惟音さんはチェスが得意だったので、何かしら

通ずる所があったらしく、友達になったという。

「シャノンも、いい友達ができるか心配だったケド、取り越し苦労のようネ」

 俺ら友達、っていうのかなぁ……普段一緒に遊びにいったりなんかしないから違うと思うん

だけど、ここで否定はできず……ぎこちなく笑顔を作るのみである。その点宗谷は、「友達」じゃ

物足りなさそうな顔を見せたが。

「それにしても、兄弟なのに全然性格が違うんですね、針……社音君と惟音さん」

 兄がいることはウワサに聞いていたが、針井と違って明るい好青年のお兄さんだ。もしかして

お兄さんは母親似で、針井はクールな父親似なんだろうか。まあ顔のつくりからしてそれも

納得できそうなのだが。

「多分、幼い頃の環境でしょうね……僕は小学生のときはInternational Schoolだったのですが」

 ニューヨークの帰国子女とかが行ってる……というか別にアメリカだけじゃなくて、日本にも

あるんだよな、どういうところか知らないが、まあ親が仕事で日本に来てる外国の子供が行く

所と思っていたが。

「社音は普通の小学校に行かせたんです。本人が幼いなりに行きたいと言い出したものですから」

 それは結構意外かも、自由奔放って感じの針井が、同じ自由って感じのインターナショナル

スクールを蹴るなんて……ってまだそのときは小学1年生だったから今の性格じゃないな(苦笑)

「でも意地の悪いクラスメートから『ガイジンガイジン』っていじめられてたみたいでね、

 本人は無視しようとして、それでああいう風に他人に無関心なんです」

「へぇ、なる……そんなことが……」

 小学生のイジメって何気に無邪気で残酷だからな……気にしてるしてないはともかく、そう連呼

されるのは気分はよくないはずだ。しかしもしそれがなかったら今の針井ではないわけで、

もしかしたらお兄さんのように明るい性格になっていたかもしれない。……今のイメージと

照らし合わせるとかなり不気味だ……今の方がある意味よかったかも(苦笑)

「でも最近のコって、シャノンよりもイオンのような性格の方がモテるようねぇ」

 セユネさんがしみじみと……ってことは、惟音さんはよくもててるってことか、家に彼女

連れてきたりして、しかも毎日違う娘だったりして(ぉ 男の俺から言えば針井ももてると

思うのだが、やはり宗谷が虫を追い払ってるってことか。でもその辺はセユネさんに伝わって

ないようだが……単に針井がそういうのに興味がないだけか。

「あの子には、お姉さんのようなグイグイ引っ張ってってくれる彼女が似合うと思うんだケド」

「そう言う度に『興味ないな』って言うんだよね」

 一瞬殺気のようなものを感じて宗谷のほうを振り返ると、すごい目線だがそれを落としていた。

多分瑠璃絵さんのことを思い浮かべたんだろうな……確かに見方を変えれば、まだ反抗期の子供、

とも取れなくもないが、それを言ったら俺も同類項かもしれん。

巫琴 & セユネ

 

 結局俺たちがおいとまするまで針井は帰ってこなかった。家族曰くそのまま弾き語りにでも

行ったんじゃないかとのこと。この家族も自由奔放だなぁ……


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