風邪気味


 なんか今日調子悪ぃ……暑いからって窓開けて寝てたら、朝方もの凄い冷えてて、それが

原因か……?鼻水あや咳が出たりするわけではないが、喉がちょっと痛いかな……

「おはようテツ君!」

 いつもの交差点で信号待ちしていると、丁度瞳由ちゃんがやってくるところだった。今日は

やけに元気そうに見えるのは、この前落ち込んでいたからか、それとも俺がだるいからか……

「……おはよう」

「……何か顔色悪いよ、大丈夫?」

 やっぱはたから見ても体調悪そうに見えるもんなのか……?それほど悪いってことか……

「ん……ちょっと頭が重いかな……」

「風邪だったら無理しちゃだめ、休んだ方がいいわよ?」

 心配そうに俺の顔を覗き込む。小学生の頃は、仮病を使っても休みたい、台風大歓迎なんて

思っていたが、勉強の難しくなった高校生になってはあまり思わなくなったのはなぜだ、

1回でも休むと授業に追いつけなくなるか、単に学校が近いからだけなのか……

瞳由

「授業の方なら、私がノート写してあげるから、ね?」

 彼女の厚意も無下にできないよな……それにそう思い込んでしまう分余計悪くなってるような

気もするのだが……

「ありがと……じゃあ今日は帰るよ……」

「うん、先生には私から言っておくから……あ、一人で帰れる?」

「ああ、近いからこのくらいは……瞳由ちゃんが遅れるといけないし」

 彼女が心配そうに見つめる中、俺は来た道をとぼとぼ帰ることにした……こんなに

晴れてるってのに一日中ベットの中か……まあどうせ元気でもゲーセンだけどな。

 

 朝は眠たいのもありおとなしく寝ていたが、さすがに昼過ぎとなると眠気も覚めるわけで。

風邪薬を飲んだおかげで気分はややマシだが、これって治すんじゃなくて抑えてるだけだって

TVで見たことあるような。結局要安静ってことだな。本当に家にゲーム機あったらやりかねん

ほどヒマだけど、幸か不幸か美鳥に貸してたっけ。おかげで国会中継とかぼーっと眺めることに。

まあ首相が変わってなんか面白くなったみたいだけどね。時間は4時、そろそろ授業が終わる頃か

……あービーマニやりてぇ……

 ピンポーン

 おっ、多分瞳由ちゃんだな、さっそくお見舞いにくれるとはありがたい。パジャマのままなのは

仕方がないがわかってくれるだろう、まだふらつく足をふんばって玄関まで行った。

「テツ君、気分どう?」

「ああ、瞳由ちゃんが勧めてくれたおかげでだいぶマシになったよ」

「よかった。……はいこれ、ノートのコピー」

 俺は板書をノートに写してもほとんど見返さないが、ノートに写すという行為自体で覚えて

いると思っているから一応写している。だから他の人のコピーをもらってもあまり意味は

ないのだが……瞳由ちゃんが丁寧に書いてくれるのを見ると、改めて隅から隅まで見てみようと 思えた。

「ありがとう……今日は現国、数II、化学……」

 教科を見ていくうちに、ふとあることを思い出した。

「今日って……部活の日じゃなかったっけ?」

 あの高校では生徒が2つの部活に所属できるようにしているため、毎日活動してる部はなく、

大体が週に2・3日だ。俺が所属するバンドクラブは今日はないが、瞳由ちゃんのアートクラブは

曜日からいえば今日のはず……

「あっ、うん、今日は休んだんだ」

「えっ……もしかして俺のせい?」

「そんなことないよ、それに休むってちゃんと顧問の先生に言ったし、学園祭が終わってから

 皆個人でやってるだけだし……」

 彼女はそう言ってるが、俺のために休んだのは明確だ。隣だからって、そんなことしなくても

……でも、もし逆の立場だったら、俺もクラブを休むかもしれない。まあそれはあのクラブも

自由気ままだからだろうが。

「それから、これ」

 コンビニの袋から(ノートのコピーもコンビニでだろうな。ちなみに今日はバイトの日では

ないはずだ)取り出したのは、果汁100%のオレンジジュース。甘いというよりすっぱいから

あまり好んでは買わないんだけど……

「風邪のときは、ビタミンCをたくさん取っておいた方がいいんだよ」

「ああ……家庭科の先生が言ってたっけな」

 ジュースを受け取る。ここで金の心配もすべきだろうが、現金を渡すってのも生々しいし、

彼女も断わるだろうな……今度何かでお返ししなくちゃな。

「晩ごはんも、作って持ってくるから」

「いや、そこまでしてもらっちゃ悪いよ、自分で……」

 とは言ったものの、冷蔵庫に目ぼしいものは残ってなかったんだ……スパゲッティはあったが、

今は食べる気はしない……

「ダメ、病人は寝てておとなしく料理を待ってて」

「……そう?じゃあお言葉に甘えようかな……」

 

 その後持ってこられたさつまいものおかゆは、さすが瞳由ちゃんというか、病人の舌にも

感じるくらい懐かしい味がした。これが「お袋の味」ってやつだろうか。


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