「昨日バラエティ番組の撮影で、お笑いの人に携帯の電話番号聞かれちゃった(^^;」
「あ〜あ、明日はドラマの撮影だけど雨降りそうねぇ……」
「お菓子のCMに出てみないかって言われてるけど、あのお菓子あんまり好きじゃないのよねぇ」
山藤は芸能人だからそういう話が出てくるのはわかる。彼女が本当は話し好きだという
こともだ。しかしその2つが同時であることは今までなかったことなのに。
今日も食堂で俺を見つけた彼女は横に座り、昼飯を食べながら話していた。
「……それでね、そのプロデューサーさんが」
「……なぁ」
業を煮やした俺は彼女の言葉をさえぎり、訊いてみた。
「学校じゃそういう話はタブーじゃなかったのか?」
すると山藤は不思議そうに目をぱちくりさせ、
「……別にタブーってわけでもないけど」
「でも言ってたじゃないか、仕事は仕事、学校では普通の学校生活を送りたいって」
「だって……」
箸の動きを止めた彼女はなぜかニヤリとし、
「てっちゃん、私の話に興味なさそうだったから」
……興味ないというか、テンション高すぎてついていけんと言ったほうが……
「そういう話もしてみると、ちょっとは耳を傾けてくれるかな、と思って」
「あのな……そっちの話は疎いから、余計に聞き流すぞ」
TV見る間があったらゲームしちまってた結果だ。
「じゃあどういう話に興味があるの?」
「そうだな……ゲームとか」
「意外とオタクっぽいのね」
「オイ……ゲーム好き=オタクな発想はやめい(--;」
「ゴメンゴメン(^^; でも私ゲームあんまり知らないから」
幼い頃から芸の道を、というのを差し引いても、女の子はあんまりTVゲームやらない
らしいからな。まあビーマニシリーズはそれにあらずだけど。
「マンガなら、移動時間中に読めるからわかるけど」
「車の中で本とか読んで酔わないのか?」
「もうなれちゃったって感じね」
くそ、俺は普通に座ってても酔うっていうのに……まあ移動のたびに車酔いする芸能人って
いうのも変だけどな。
「で、どんなマンガが好きなんだ?」
「あんまり少女漫画って好きじゃないのよね、異様に線が細いとか。やっぱりカッコイイ
冒険ものかな?例えばSuper-Abilityとか」
……マジですか……ここでもかよ……いくら人気だからってそうしょっちゅう出るもんか……
ああ、瞳由ちゃんが好きだからよくコミック持ってきてるからそう思ってるだけなのかも……
「てっちゃんはこのマンガ好き?」
「ま、まぁな……」
「実はね、今度映画で登場キャラの声優するかもしれないのよ」
映画まででるんかい……最近親父に会ってなかったからそういう話は聞かなかったが、
どんなストーリー作れるっつーんだ……しかも山藤が声優ですか……また見てくれって
言うんだろうな……
「まだはっきり決まったわけじゃないんだけどね」
「……ま、Super-Ability好きの娘が映画見て、山藤の名声優ぶりを聞いてまたファンが
増えたりしてな」
また適当に聞き流すと余計に話してくるだろうから一応返してはみたのだが、それがいけなかった。
「……娘?誰のこと?」
耳ざとい山藤は俺のちょっとした言葉遣いにまで反応してくる。
「別に……俺のクラスにそのマンガが大好きな娘がいてな、その娘を思い出しただけ」
つまり瞳由ちゃんのことなのだが、本当に山藤(やまふじあいこ)のファンになるかも……?
「ふーん、そういうことには興味があるのね」
やけに横目を作って睨んでくる。
「なんだよ、そういうことって……」
「やっぱりてっちゃんも健全な男の子なのねぇ〜」
「べ、別にそういう対象とは……」
思ってない、と断言できないのが悲しいところだった。
「じゃあ、私なんかはどういう対象?」
山藤は自分を指していきなりそんなことを聞いてきたのだった。だが俺はどうせいつもの
おちゃらけた質問だと思い、適当に返してしまった。
「ハイハイ、好きですよ……」
「もうっ、ちゃんと真面目に答えてよっ!!」
途端に怒鳴ったのでさすがに驚いて、食べてるものを噴き出して鼻に入りそうになった。
あまりの豹変振りに山藤のほうを見返す。周りの人も彼女に視線を向けていた。
「あ……ゴメン……」
珍しく顔を真っ赤にして黙り込んだ。なんなんだ、そりゃ不真面目だったかもしれんが
嫌いとかは言ってないからそこまで怒ることないじゃないか……それとも今のは山藤が
本気で聞いたことなのだろうか……いつものテンションで話すから境目がわからんぞ……
その後は2人とも無言で食事を終え、バラバラで教室に帰っていった。午後の授業中でも
あのときの表情が頭から離れずにいた。