学食


 キーンコーンカーンコーン……

 学校の鐘の音ってどこも同じだよな、確かイギリスのビッグベンが元になってるとかじゃ

なかったっけ? ともかく4時間目の授業が終わった。昼飯だ。弁当を作って(もらって)くる

生徒も多い。瞳由ちゃんも弁当だし。しかし俺にはそんな手間も人もないのでもっぱら

学食かパンだ。今日の気分は学食だな。以前は佑馬を誘っての学食だったが、最近は

七希菜ちゃんに合わせて弁当らしい。当然彼女と違って親に作ってもらってるんだろうけど。

一人寂しく飯食うか……

 

 俺は並んで待つというのが嫌いだから、ダッシュで食堂に向かった。今時廊下を走るなと

いう奴もなく。もちろん全力で走ってるわけでもないが。無事食堂につくと、それほど並んで

なくて一安心。さっさと飯食って5時間目始まるまで寝とこう。

 私立の学校なので、かは知らんが、食堂のメニューは充実。何を食べるか迷う所だ。そこで

あるのが栄養のバランスを考えた「日替わり定食(定番)」。今日のはササミチーズフライ。

意外と合うこの味♪

 ガヤガヤ……

 そろそろ団体で来る頃か。この時になると10分くらい並ばないと食えないからな。

それに席にも限りがある。本当は空席は結構あるのだが、知らない人の隣の席というのは

あまり座りたくないものだ。かくいう俺の両側の席にも誰も座っていない。

 ガヤガヤガヤ……

 ……なんかいつもよりうるさいな、今日は別に割引なんかしてないぞ? 振り返ると……

生徒のかたまりはほとんど男ばっかじゃん……よく見ると真ん中に女子が一人、あれは今年

入学してきた芸能人、やまふじあいこ――芸名かもしれないけど、彼女がいた。どうやら

男どもは彼女のファンか、ただ有名人と知り合いになって他の有名人を紹介して欲しいとか、

そんな感じだろう。ま、興味ないけど、迷惑なことはしないでくれよ……

 ガヤガヤガヤガヤガヤ……

(だからうるさいって……)

 また後ろを向こうとすると……人のかたまりは俺の目の前まで移動していた。その中で盆を

持っているのは彼女と、男は数人だけ。彼女は空いている席を探して見渡すと、よりによって

俺の隣の席に腰をおろした。当然周りはどやかましい。俺は静かに食べたいのにな。

「おい2年」

 ぶっきらぼうに声をかけたのは3年生男子。制服には学年バッジがついているのでよくわかる。

俺のも見て年下だとわかったのだろう。だからってなんでも偉いんじゃねぇんだぞ、だいたい

これから言いそうなことは予想できるし……俺はあからさまに嫌そうな目で相手を睨む。

「そこの席、変わってくんないかなぁ〜?」

 ほらやっぱり。女優と一緒に飯食いたいってか。俺の方が先に座ってたんだぞ、そりゃ気持ちは

わからんでもないが、そこまでしてやることかよ……ちょっとキレて見ようかななどと思っていた

矢先、彼女が間に入った。

「ちょっと、私を慕ってくれるのはいいけど、ここじゃ普通の扱いしてって言ったでしょ?」

 彼女のちょっとキツめの忠告に、さすがに3年も反省したらしく、

「お、おう、ゴメン……ち、よかったなマセガキ!」

 捨て台詞を残して男どもは散っていった。どうやらあいつがリーダー格のようだ。つーか

マセガキて、てめえと1つしか違わねえじゃねえか。

「ゴメンネ、怒ってる?(^人^;」

 我に返ると、彼女が俺の隣で顔の前で手を合わせて苦笑いしていた。そりゃ彼女が隣に

座ったから面倒なことになったのだが……

藍子

「いや、君が謝ることじゃないだろ、やまふじ……」

「あっ、さんとう。さんとうあいす」

「……3等アイス?」

 つい失礼な聞き方(アクセント)をしてしまったかも。

「山、藤、藍、子、って書いて、さんとうあいす。これが私の本名」

「ああ、そう……なんだ」

 どっちが芸名だよ……でも名前だけ聞いても誰かばれないし、自分の名前に近いから愛着は

あるかもな。ちらりと彼女を見ると、何事もなかったようにもくもくと学食を食べている。

その向こうには――俺の方を睨んでるあの3年生が……こりゃ面倒なことは終わりそうにねぇな、

こっちは興味ねぇっつーのに……

 飯が終わった。相手の飯が終わらないうちにさっさと退散するか。

 

「それじゃ、やまふじさんと話できたの!?」

 5時間目が始まる前に先ほどのことを瞳由ちゃんに話してみると、興味を持ってくれたようだ。

ただし3年男子のことは語らず。要らぬ心配はかけたくないしな。

「さんとうあいす、てのが本名だって」

「……3等アイス?」

「……プッ」

 俺と同じ聞き方してるし。何故吹いたのかわからず彼女が不思議そうな顔をすると同時に

5時間目のチャイムが。眠い授業が始まるなぁ……


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