目撃


 3年は受験勉強で忙しいが、2年もそろそろ進路を考えなくてはならない。というわけで

担任との進路面談が始まった。まあそのおかげで授業は午前だけなのだが、今日は俺の番なので

時間まで待たねばならない。まあ聞かれることはいつも同じなんだろうけどな、最近のテストの

結果とか……

 

 「進学クラスも狙えるのに」と言われた。まあ勉強時間の割には出来てる方だと思うけど、

難しいところに入るとその中での順位が低くなっちゃうじゃないか。「鶏頭となるも牛後となる

なかれ」という偉い人の言葉があってだな……さすがに先生にそれは言わなかったけど。

 次の番の人に告げて、やっと帰れることに。さてやっぱゲーセンかな……ビーマーは指が命

だからちゃんと手袋して温めとかなきゃな。そういえばあの曲のDPがもう少しでクリアできそう

なんだよな……などと考えながら廊下を歩いてると。

「あの……列戸さんっ!」

 周りに人がほとんどいなくて静かだったので大きくない声でもよく聞こえた。ここって、

アートクラブの部室の前だよな……瞳由ちゃんがいるようだが、今喋ったのは男の声だった。

「僕と、つ、付き合ってくださいっ!!」

瞳由 & 北野

 で、でぇえ!?告白?!しかも瞳由ちゃんに……もの凄く気になってつい部室をのぞいてみる

……中には2人、瞳由ちゃんともう一人――確か北野とかいう奴じゃないか?2年で生徒会の

書記やってんだったよな。あいつもここの部員なのか?それにしてもよりによってこんな場面を

目撃するなんて……というか瞳由ちゃんの返事が気になった。瞳由ちゃんは照れたように下を

向いている。そりゃそういう反応になるだろうな、いつも一緒に絵を描いてた仲間から突然の

告白なんて……というか俺がのぞき見しちゃいけないんだろうけど、俺だって彼女と親しい

一人だ、気にならないはずがない。やがて瞳由ちゃんが顔を上げた。

「……ごめんなさい」

 が、そう言ってすぐに頭を下げた。つまるところ、お断りしたわけだ……なぜかホッとする俺。

一方の北野は、当然ながら言葉を失ってだんだんと頭が沈んでいく。せっかく勇気を出したのに

砕けちまったんだからな。

「でも、これからもいい友達で、ね?」

 瞳由ちゃんのこの言葉は、フォローというよりも、明日から会ってもお互い気まずくならない

ようにということだ。同じ部に所属してるらしいからな。俺なんて例えそういう相手にめぐり

合っても、確実にOKをもらえるような相手じゃないと告白できないような臆病だ。でもそういう

状況はありえないだろうから、彼女いない暦17年なんだよな……俺は北野を応援してたな、

相手が瞳由ちゃんじゃなかったら。

「……僕のどこがいけないのかな……」

 かすかな望みを持って北野が尋ねる。自分の欠点を直して、再度告白しようということか。

「ううん、北野君はとってもいい人よ、優しいし勉強もできるし……でも」

 彼女は目を伏せ、恥ずかしそうにぽつりと言った。

「私にも、好きな人がいるから……」

 ……そうか、それなら仕方ないよな、思い込んじゃったらそっちの方に――って、何冷静に

分析してんだ……瞳由ちゃんに好きな人が?!

「そ、そうなんだ……」

 暗い言葉の北野よりも、もしかしたら俺の方がショックを受けているかもしれない。瞳由

ちゃんが……そりゃ年頃の女の子だし、俺の周りでも(佑馬と七希菜ちゃんとか)付き合ってる

のは知っている。でも……

「北野君も、良い彼女がすぐ見つかるよ」

 そろそろ話が終わりそうな雰囲気なので、俺は足を忍ばせてその場から立ち去ることにした。

あーあ、なんか聞くんじゃなかったかもな、結局瞳由ちゃんが振ったわけだし。まあ彼女が

誰と付き合おうが俺のでしゃばることじゃない、というのはわかってるはずなんだけど……

やっぱり気になるのは、瞳由ちゃんが好きな相手だ。とりあえず俺、という考えは捨てよう。

そこまで俺は自惚れてないし、もしそうだったら普段のようにあんなに親しく話せるわけがない。

本当に好きなら今の北野のようにおどおどとしか話せないはずだ。俺は経験はないけど。

ま、それに俺だと思ってて違ってショック、よりは俺じゃないと思ってて実は俺、の方が嬉しさ

倍増だし……それも自惚れだな。

 夜も眠れないくらい考えこんでしまわないうちに、ビーマニやりまくって忘れよう。……

忘れられりゃいいんだけど。


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