号泣


 あれから、バンドクラブが暗い。

 暗いといっても、元々少人数だし狭い小屋のような所でやってるから変わらんのでは、

とも思えるが、やはり宗谷が針井にからみにくくなったのが一番の違いだろう。というか

このくらいおとなしくなったのが丁度いい。

 今は3人バラバラに曲を弾いている。3人っていうのは少なすぎるし、もし来年新入部員が

来なかったら廃部かもな……という考えがよぎった。いつ廃部になってもおかしくないような

雰囲気なんだけど、学校がクラブ推進校だけに今年度は大丈夫だ。しかし来年度からは多すぎる

クラブを削るために、5人以上の部員がいない所は部と認めず、部室や部費を与えられなく

なるとか。5人未満の部って、ここのほかにあったっけ……?

 ふと針井が自分のギターをおき、部室から出て行った。多分トイレだろう。ここには

設置されていないから、一番近い体育館のを使うしかない。

 いきなり宗谷と二人きりになった。といっても別にどうってことない……と思っていたのだが、

いつもの宗谷じゃなく元気が無い感じがするので気になってしまう。多分あれから、何度も

針井に甘えようとしたけど、ことごとく避けられたのだろう。さすがの宗谷もへこんだのか。

 と、宗谷が針井のギターに近づいていき、そして触れる……演奏するでもなく、弦をはじき出した。

「なあ……何やってんだ?」

 俺も思わずキーボードの練習を止めて宗谷に声をかける。

「あんまり勝手に触らないほうがいいんじゃないか?俺にも触らしてくれなかったんだし」

 無愛想な針井もそのギターには愛着を示しているらしい。まあそが唯一の友達と思ってたりして。

「ほっといてよ……まだシャノンのぬくもりがあるうちに……」

 言ってることは女の子っぽくなったが、やってることはストーカーっぽいな……しばらくは

無視して練習を再開したのだが、なかなか宗谷はギターを離そうとしない。もう弾くどころか

抱きしめてたりする。

「おい、そろそろ……」

 針井が帰ってくるぞ、といい終わる前に――扉が開き、針井が戻ってきた。宗谷は一瞬

ビクッとしたが、

「……はい」

 と持っていたギターを針井に手渡そうとした。針井はつかつかと歩み寄り、ギターをひったくる

ように取り返すと……

パシン!!

「ッあっ?!」

巫琴 & 社音

 声にならない音をもらして、宗谷がのけぞった。針井がビンタを放ったのだ。彼の顔は

よく見えないが、口はヘの字に曲がり歯を食いしばってるように見えた。

「は、針井、お前いくらなんでも……」

 針井がここまで怒るなんて見たこと無いので、俺にもとばっちりが来ないかとびくびくしながら

なだめようと試みた。宗谷は今だ頬を押さえてぼうっとしている。

「……勝手にオレのギターに触るからだ」

 そう言うと、さっさとギターをケースにしまい、また部室を出て行ってしまった。さっきと

違うのは、そのギターを持って出たということ。つまりもう家に帰るということだ。

「ま、待てよ!」

 いくらそれが大事なもので他人に触られたくないとしても、いきなりビンタだなんて……

しかも(一応)女にだぞ?俺も思わず熱くなって針井を止めようとしたのだが――出来なくなった。

「ぅわ……わっ……うわーーん!!」

 突然宗谷が大声をあげて泣き出したのだ。これでは宗谷を放って針井を追いかけられない。

仕方なく宗谷を落ち着かせることに。

「ま、まあ落ち着……」

「シャノーン、シャノーーーン!!」

「だからな、その……」

「いや〜あ、嫌わないで〜〜ぇ!!」 「…………」

「うえ゙〜〜〜ん!!」

「泣くなっ!」

 俺も思わず大声で怒鳴ってしまったが、そのおかげで一応泣き叫ぶのはやめてくれた。それでも

まだしゃくりあげてるのは直らないが。……こんな宗谷を見るのは当然初めてだし、想像も

しなかったな……でも針井にああいう態度で接していたら、いつかはこうなるかもとは思って

いたが……なんか納得できない。

「まだお前が嫌いだと言ってるわけじゃないだろ、それに嫌いだったらとっくに避けてるだろ」

 まあ、最近になって嫌いになった、とかだとフォローもしようが無いが……宗谷がいつも

ああいう風で変わってないのなら、突然嫌いになんてないと思うが……

「俺が針井と話つけてやるから、気持ちを落ち着かせろよ」

「……ひぐっ……」

 手でまだ流れる涙をふきながら、宗谷はうなずいた。


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