代わり


 終業式まで後数えるばかり。今日の授業も終わって、この後何するかな……やっぱビーマニか。

俺もワンパターンだ……お、あの後ろ姿は……声をかけるのもワンパターン。

「あおいちゃん」

 言うが早いか、彼女の元へ走っていた。彼女が振り返るのがスローに見える。今日はかばんを

持っているということは、家に帰るということか。

「今日はクラブ無いんだ」

「タイトさんも……?」

「ああ。一緒に帰る?」

「はい……でも」

 今の「はい」はいつもよりもまして反応が早かったような……気のせいか?

「おうちはすぐなんじゃ……」

「ああ、俺はちょっとゲーセンにね」

「また、ですか」

 今ちょっと「しょうがないね」って感じの笑顔を見せたような……微妙すぎてわかり

にくいが、そうだとしたら嬉しい変化だよな。

 駅前までの道を二人並んで歩く。今日はちょっと曇ってるが、そのおかげでそれほど寒くない。

だから寄り添って……なんていうのはできそうにないな……

「そうだあおいちゃん、クリスマスパーティに来ない?」

「……もしかして千代川さんの」

 そうか、二人とも料理クラブだったな、七希菜ちゃんが部員みんなに言ったのだろう。

でも全員が入れるほど彼女の家大きいわけでもないし……まあクリスマスなんだから他に

約束がある人もいて全員ということにはならないだろう。

「私が行ってもいいんでしょうか……」

 またいつもの沈んだ表情で遠慮がちにボソッと言った。自分が行っても場を盛り下げてしまうと

思っているのであろうか。……否定はできないけど(ぉ

「大丈夫、友達みんな楽しい奴ばっかだから、心配しなくてもいいって。それに」

 自分の友達ならともかく(いや自分の友達でもありえなさそうだが)、七希菜ちゃんの友達

なんだから適当なことを言ってしまったのもなんだが、あおいちゃんを連れて来るためには

何とでもでっち上げようと思った。でも本心ではウソをつかない。

「あおいちゃんが楽しめるかもしれないだろ?」

 彼女を笑わせるには、やはり場の雰囲気に溶け込ませるべきだ。一度明るく振舞うことが

できたなら、その後も明るくなれると思うのだが。

「……じゃあ、行かせてもらいます……」

 いくらか迷いがあったようだが、結局は俺の念押しで決まったようだ。

「よしよし、そうこなくっちゃ」

 俺は無意識にあおいちゃんの頭を撫でていた。同い年とはいえ、男の俺の方が背が高いし、

あおいちゃんも背が低いほうなので丁度いい位置にあったからだ。それにあおいちゃんって、

どことなく猫っぽい気が……よくわからないけど、気が付けばそこにいる、みたいな。あと

やきもち焼きってのもあったりして(笑)

あおい

「……あ」

 恥ずかしそうに下を向いたまま歩いていたあおいちゃんがいきなり声を上げて立ち止まったで、

ビクッとして手をひっこめる。彼女はすみません、と言ってから、

「サテルが……いない……」

と自分の鞄を見せる。いつも丸いぬいぐるみをつけていた部分には今は何もない。

これで2度目だぞ?確か1回目は、益田が……

「今日来る時はあったのか?」

 いつ無くなったのかまず知ってから目星をつけようと思ったが、あおいちゃんはいつ

無くなったか覚えていないらしい。毎日大事にしていたように見えたのだが……?

「ごめんなさい、また無くして……」

 俺から2度ももらったのに、自分のせいだと本当に申し訳なさそうなあおいちゃん。

でもわざとじゃないんだし、金具でとめてあるはずだから普通は取れたりしてなくならないはず。

「気にするなって、そうだ、また俺がUFOキャッチャーで取ろうか?」

 言ってから、2回目に取った時のことを思い出して、やっぱ言わなかったほうがよかったかな?

と後悔しかけたのだが。

「い、いえ、いいんです」

 なんだか慌てながら断わるあおいちゃん。やっぱ彼女も前のことを思い出したのか……?

「もう必要ないですから……」

「でも、あれは……」

 弟の代わりじゃ、とはとても言えなかった。そんなこと言ったらまた彼女に嫌われてしまう……

しかし彼女は

「タイトさんが、いますから……」

 聞き違いしそうに小さい声でそういうと、ゆっくりと歩き出そうとした。慌てて俺も後を追う。

俺がいれば寂しくない、ということか?それなら嬉しいこと限りなしなのだが……取りように

よっては「俺が弟の代わり」みたいだぞ……?年があんまり違わなければ、背の高い弟だって

いるわけだしな。どっちだ……?

 当然聞くわけにもいかず、無言のままゲーセンの前で別れた。ふと見ればUFOキャッチャーの

中には物体シリーズ(俺呼称)はなく、クリスマス色の人形ばかりが並べられていた。


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