本性?


「最近宗谷って、おとなしくなったと思わねぇ?」

「あぁあぁ、オレも見かけたけど、全然変わったよな」

 今日は終業式、式が終わって先生が来るまで、生徒たちは今年あったことや来年の計画で

話が盛りあがってるが、ある男子のグループでは宗谷のことが話題に上がっていた。

俺も思わず聞き耳を立てる。

「何なんだろうな、やっと女に目覚めたとか」

「いや、針井に対しては女っぽかっただろ?……振られたとか」

「「ありえる〜」」

 ……やれやれ、第三者は適当なことを言うよなぁ……そういう俺は「第二者」?バンドクラブも

休部状態だし、登校時間にも会わなかったし。やっぱあいつのクラスに行かなきゃ会えないな……

 

 放課後になって、急いで宗谷のクラスに行ってみる。いつもはすぐ終わる担任の話なのに

今日に限って(今日だからこそ?)長い話だったな……もう他のクラスの生徒も帰りだしてるし、

もしかしたら既に宗谷も……あ、いた。

巫琴

 宗谷は窓際の席で外をボーっと眺めている。空は曇っていて、ポツポツと雨も降っている様子。

今日はまだだが、クリスマス前後には雪も降るとか予報があったな、タイミング良すぎ(笑)

……っと、そのクリスマスのことで話があるんだっけ。俺は教室に入っていった。

「おい、宗谷」

 あまり反応を見せないので聞こえなかったのかと思ったが、ゆっくりとこちらを振り返った。

既に教室の照明は消され、暗くてよくわからないが宗谷の顔はいくらかやつれて見えた。

「……なに?」

「バンドクラブ、最近やらないよな」

 とりあえずそこから話を始めることにしたのだが、宗谷は何かを言いかけて、自分の鞄に

手を入れる……取りだしたのは1つの鍵だった。

「これ部室の……もう行かないから」

「行かないって……2人でやれってのか?針井と」

 針井、の名前を聞いてビクッとし顔をこわばらせる宗谷。……悪かったかな、でも本当のことを

こいつに言えば、こういう状態も治まるだろうから……確かにこっちの方が女らしいけど、

宗谷らしくはない。他の同級生より多少は身近にいるから、やっぱりいつもの宗谷な方が

安心する。普段は男勝りで、針井の前ではベタベタでもな。

「針井は――お前を許してる、いやむしろ申し訳ないことをしたとも思ってるぞ」

 宗谷は無言で聞いている。

「24日、七希菜ちゃん……千代川さんの家でクリスマスパーティがある。一応針井も

 誘ったから、仲直りするためにもパーティに行かないか」

 実は針井の家でも家族でクリスマスパーティが予定されていたのだが(母親がクリスチャンだし)

宗谷のことを家族に話すと、それならばと針井を貸してくれた。

「……またいい加減なこと……」

「ウソついてどうすんだよ、来たらわかるだろ……それに瑠璃絵さんだって2人が仲良くなって

 欲しいって言ってたし」

「来るの?!あの女っ」

 多少は人間らしい感情かと思えば、怒りと恐怖が混じったような表情だった。まだ瑠璃絵さんの

ことを疑っていたのか。

「彼女は来ない。つーか瑠璃絵さんと針井は何でもねえって」

 これは俺にも言いきかせてることかもしれないが。それにまだ宗谷は疑いの目を投げかけ……

というか、ずっと俺の方を見ていない。そういえば宗谷は……もう教室には他に誰もいない、

俺は宗谷に詰め寄って両肩をつかんだ。

「っ!?」

 思わず俺の方を見る、その宗谷の目を真っ直ぐ見つめた。

「本当だ。信じろ」

 やり方はどうあれ、俺の話を信じてパーティに来て欲しいのは本心だ。宗谷は案の定というか

俺に見つめられて(誰でも同じだろうが)、見る間に顔を赤らめ、もっとしおらしくなった。

「……う、うん……」

 ……なんか、余計に宗谷らしくないな……それともこれが宗谷の本性なのだろうか。

打たれ弱いのを隠すために、わざと強がって見せているとか。針井に見せていたあのベタベタ

ぶりも、全部演技だったとか……それは逆効果だったのかもしれないんだけど。

「……じゃ、ちゃんと来いよ」

 俺が肩の手を離して目をそらすと、一瞬だけいつもの宗谷らしさを見せた。眉をつり上げ

怒った感じで、口と同時に手が動くのな。

「……ばかっ」

 しかしにぎったこぶしは、俺の腕に軽く当たっただけだった。


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