恋愛小説


 今日もバンドクラブ。そういえば上久部長(辞めてはないので一応まだ部長)、この前会ったとき

センター試験かなりよかったらしいから、目標の大学行けそうなんじゃないかな。俺も……

勉強ではないが、約1年バンドクラブに入って、キーボードを結構弾けるようになった。

これも意外と教え上手な宗谷のお陰か……

 と宗谷を見ると、ギターを弾いていたはずなのだが、椅子に座ったままいつのまにか文庫を

取り出して読みふけっている。宗谷に読書。似合わねぇ〜(ぉ 気になって練習の腕を止め、

そうっと覗いてみる。今聞こえてるのは針井のギターのみ。

巫琴

「……恋愛小説?」

「!? ……ちょっと」

 表紙に高校生くらいの男女のカップルが可愛げに描かれていたのでわかったが、タイトルは

なんか英語で分からなかったし、俺が覗いてるのに気づいて宗谷も慌てて隠そうとするし。

"Hold"……しか見えなかった。

「いきなりなんなのよ」

「そりゃ気になるだろ、本なんか読んでたら。しかも恋愛って……」

「なんかその言い方引っ掛かるわね……」

 まだ細目で睨みながらも、今の本を取り出す。といっても続きを読むでもなし、俺に読ませ

ようとするでもなし(読みたくもなし)。

「なんかこう、普通の女の子はどうやって恋するものなのか、なんて知りたくなってさ」

「普通の娘ったって……」

 友達に聞きゃいいだろ、と思ったが、よく考えてみれば宗谷ってあんまり女友達いなさそう

だよな、だって女子に人気の針井にベタベタだったもんな。最近は違うけど、周りではまだ

ベタベタしてるんじゃと思われてるかも知れないし。

「でもそういうのって、『お約束』ばっかりなんじゃないか?」

「お約束って?」

「例えば、遅刻しそうになって走ってて、曲がり角でぶつかった相手に一目惚れするとか、

 同じものを取ろうとして手が重なって互いに意識しあうとか」

「……なんかやけにくわしいわね」

 別に……一般常識だ(と思う)し。というか親父が漫画出してる同じ雑誌に載ってる漫画で、

そういうのがあるとか親父から聞いたことあるけど……それでも人気はあるらしいな。

別の意味「ベタベタ」で俺は好きじゃないが(笑)。

「じゃあどうしたらいいと思う?」

「いや……俺に聞くなよ……自分で考えるんだな」

「口出ししておいてそれはないでしょ?」

 意見を言っただけなのにややこしいことになりそうだな……大体男が女に女心を教えるなんて

これほど矛盾したものはないと思うのだが。そういえば人間は生まれる前は皆女だったとか……

関係ないし、なんでこんなこと知ってるかの方が謎だが。

「まあそういうのは、都合よく相手がいるんだろ、相手もいないのに参考にならんと思うぞ。

 それとも……また針井とか?」

 言いながらちらりと針井を振り返る。ギターの音で聞こえないのか、興味がないのかで

自分の世界に入りきったままだ。なんでもあそこまで集中できるっていうのはうらやましいが。

「シャノンは……そういうの興味ないと思うし」

「なんだ、わかってんじゃん」

「多少は冷静になったからね……」

 ふーん、まあ勉強してる姿勢は認めるが、何も今必ず恋愛しなくてもいいような気もするが……

まだ恋愛に飢えてるのか?

「で、何か勉強になったのか?」

「……あんたの話聞いてると、あんまり価値ないような気がしてきちゃったじゃない」

 と膨れながら、文庫を自分の鞄に仕舞いこむ。ちらっと覗いた鞄の中には、同じような

文庫が他に2、3冊見えた。

「じゃ、今日は終わりにしますか」

「お前練習やったのか?」

「いいじゃない、あたいはあんたに比べて十分上手いし、また何度でも練習できるんだから」

 ちょっと言い方がひっかかったが、まあ卒業までこのメンバーでバンドクラブを続けるのは

間違いないだろう。来年度の新入生が何人くらい入部してくれるのかは知らないが。

宗谷が針井目当てで寄ってくる女子生徒を追っ払わなくなるだろうから、多少は望みが

あるかもな。針井をエサにするのも何だが(笑)

 

 部室を出ると寒風が吹き体が冷えるが、空はいつもより暗くはなかった。段々と昼の時間が

長くなってるんだな……と、もうすぐバレンタインか。宗谷は何も言わなかったし俺も

聞かないけど、くれたりするのかな?手作りは想像できんが(汗)

「? 何変な顔してんのよ」

「いや、別に……」


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