大告白


 昼飯の時間――いつもなら食堂へ行ってれば、そのうち藍子がやってきて隣に座って

俺と話して楽しんでくれるだろう。だが今日は……来そうにない予感がした。実際食堂に

行ってしばらく待ってみるも、藍子の姿はない。今日は食堂ではなくて、購買でパンでも

買って食べよう……

 買ってからどこで食べようか考えてみると、真っ先に屋上を思いついた。夢に出てきた屋上……

少し夢の内容を忘れかけているので、また思い出したいということで長い階段を上って屋上に

向かう。今日は多少は暖かくなってるしな……でもわざわざこんな所で食べようという奴は

他にいないだろうな。

 屋上に出た。一応辺りを見回してみて――誰も見えない。一番日の当たりそうなところを探して

歩き回る……と、1人いた。体育すわりで顔をうつむけて動かない女生徒。日向ぼっこしていて

眠ってしまったようだ。その長い髪に目をやって……これこそ夢ではないかと心の中で驚いた。

「……藍子?!」

 まさかと思って名前を呼んでみる……微妙な動きの後、頭が上がる。その顔は疲れているように

見えるが、やはり山藤藍子だった。

「……テツ」

 その声が夢の中のものとかぶって聞こえて寒気がした。だが平然を装って

「昼飯は食べたのか?」

「ううん……欲しくないの」

「ちゃんと食わなきゃいかんぞ……ほら」

 俺のパンは2つしか買ってなかったのだが、その一つを藍子に差し出す。藍子はまだ寝ぼけて

いるのか表情をあまり変えなかったが、視線をパンに動かし、そして俺の顔へ戻す。

「……いいの?」

「いつも一緒に昼飯食ってるだろ」

 手を出さない藍子の手を半ば強引に取ってパンを持たせ、俺は藍子の隣にしゃがみこんだ。

俺がもう一つのパンを食べだすと、藍子もようやくパンの袋を開けた。

「今日、夢を見たんだ……」

 いつもは藍子から話題提議するのだが、今日は俺が先に話し出した。藍子を見ても、自分から

話をしそうにないようにも見えたからだ。

「藍子に振られる夢だった」

 この言葉で俺の方を一瞬向くが、またすぐにそっぽを向く。

「いつか、全く逆の夢見たよな、告白されたやつ。あれは顔面パイのオチだったけど」

 今まですっかり忘れてた数ヶ月前の夢も瞬時に思い出す。例え夢でも、俺にとって大事な記憶は

脳の片隅に残ってるもんなんだな……

「今日のはオチはなかった。さよならで終わりだった」

「なんで……そんな話するの?」

 そっぽを向いたまま藍子がつぶやいた。藍子が俺のことを本当に思ってくれてるのなら、

こんな話を聞きたくないだろうと思っていた。だからこそ話して確かめたかったのだ。

「振られた理由は、俺のマスコミ嫌いだ。実際現実と同じだな」

「……もういいよ」

「やっぱ現実でも嫌われてるのかなーなんて心配になっちゃったりして」

「……嫌いなわけないじゃない、でも」

 ため息をついてから半目で遠くを見ながら藍子が言った。

「嫌われてるって思われるのは嫌い」

「……俺もだ」

 残りのパンを口に放り込み、ジュースで一気に流し込んで、飛び上がるように立ち上がった。

「やっぱり好きだって気持ちはちゃんと伝えるべきことだよな」

 ズボンのほこりも払わないまま俺は屋上を囲む金網の方へ歩いていった。多分背後では

藍子が不思議そうに俺のほうを見ているだろう。これから俺自身恥ずかしいと思うことを

やるとは予想もせずに。即ち、大声で叫ぶこと。

俺タイトテツはーっ、山藤藍子のことがーっ、

 大好きだーーーーっ!!

「ちょっ……?! テツ?!」

藍子

 息も切れんばかりの絶叫に、さすがの藍子も駆け寄ってきて慌てる。今のはかなりの生徒に

聞かれたんではないだろうか。

「誰からも、『タイトテツは山藤藍子のことを嫌っている』なんて思われたくない。

 だから言ってやったんだ」

「で、でもっ、他にやり方が……」

「ほら藍子、次はお前の番だぞ、皆に言ってやれ」

 本当は藍子に叫んでもらいたかったから、俺がやったのかもしれない。でも藍子は俺がマスコミ

嫌いってことに遠慮してるから、このままでは言ってくれなかったのも確かだ。結局は、

俺が勇気を出して告白することにあったのだ。その名のとおり大告白だが。

「え、えと……」

 藍子でもこんな大舞台に立ったことはないかと思うくらい恥ずかしがっているように見えたが、

意を決して息を吸い込んだ。その顔は名女優「やまふじあいこ」ではなく、一人の女の子

山藤藍子の笑顔だった。

私山藤藍子もーっ、タイトテツのことがーっ、

 大好きーーーーっ!!


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