存在の意義


「なぁ佑馬」

「ごめんテツ」

「……まだ何も言ってねえだろ」

 あのプリントが配られた次の日。人数の少ないクラブは今日から必死に勧誘を始めるだろう。

確かに期末テストが終わった今なら勧誘活動を行っても問題ないから、今になってあれが

配られたんだろうけど。

「僕は将棋部にしか入ってないからもう一つ分余裕があるから、出てこなくてもいいから

 登録しとけって言うんだろ?」

「わかってるんじゃねぇか、だったら」

「だから、他の友達にお願いされてそっち登録しちゃった(^^;」

 う、やられた……今日の登校時でも駄目か、やっぱ昨日のうちに探してつかまえるべき

だったかな。多分今じゃもう遅いから、本当にやる気を出させるくらいに勧誘しないと

いけないんだろうが、俺そこまで熱血じゃないぞ……

「大変だねぇ……あ、あれテツのクラブの人じゃないの?」

 校門を入ったところで佑馬が指さした先は――すでにたくさんの勧誘組がビラを配っていたが、

針井の姿もあった。なんだやっぱ手伝ってくれてるんじゃ……と思ったが、近くに宗谷の姿が

見えないので違和感を感じ……まさかと思い佑馬を先に行かせて、針井に駆け寄る。

「おい針井、それ……」

 奴の持ってるビラを覗き込むと、昨日俺たちが作ったものとは明らかに違う……

なんか魔術文字みたいなのがいっぱい書かれてるものだった。やっぱこいつオカルト部にも

入ってたんかい……この魔術文字で無意識に連れて行くとか……まさかな。

「そっちの部も大事かもしれないけどな、バンドクラブのことも考えろよ」

「こっちは……今4人だ」

 4人?部員がってことか?じゃああと1人(分)ってことか……う、ちょっとだけ

「なら仕方ない」なんて思ってしまったぞ(魔術のせいか?)……

「俺らの方が少ない……2.5人なんだぞ?こっちのほうがもっと……」

「どうしても見つからないなら、俺ともう一人、片方のクラブを辞めて1人分だ」

 一瞬どういう意味かわからず……ああ、もう1つの部活の半人分を、足りないほうへ回すと

いうことか。それなら人を探さなくても済むわけだ、考えた――なっ……?

「お前……辞めるって」

「……バンドクラブをだが」

「な、何言ってんだよ、みんなでやってきたんだろ!?」

「俺は一人でもやれる」

「宗谷は……! あいつはどうなんだよ」

 今の宗谷は針井に惚れてるわけではないが、あいつがバンドをやろうと思ったきっかけは

こいつというのは変わらない。少なくとも針井と一緒にバンドしたいというのはあるだろう。

俺だってそう思うくらいだから。針井は俺を一瞥して、

「……なら、お前が面倒見てやればいいだろ」

「……面倒って」

 俺がバンドクラブ続けるのは当然だろ、じゃあ俺がって……針井の代わりになれってことか?

そんなことできるわけが――ないのだが、なぜか言い切りたくなかった。そりゃギターは全く

弾けないし、キーボードもまだ発展途上なのだが、演奏以外の面で頼りにされたくはあった。

それはなんなのかわからないが、考えてみれば宗谷のために何かやってやろうとしたことは

意外と結構あることに気づく……そりゃ乱暴な奴だが、俺は力に屈して仕方なく、なんて

考えたことは一度も無い。あいつはやるときはいつも真剣なんだ、そのことに俺も共感を

覚えて、手伝ってやろうと、一緒になって頑張ろうと思ったのかもしれない。

「俺は……」

「言えよ、どっちだ」

 まさか針井に問い詰められるとは思いもしなかったが……多分こいつには、嘘を言っても

全部見透かされる気がする。だったら初めっから正直に言ってやろう……正直な答えは――

初めに思った答えだ。

「……ああ。面倒見てやるよ」

 それを聞いて、針井の表情が緩んだように見えた。相変わらずの無愛想面だが。

でも俺が面倒見るからといって針井が辞めることとは関係ないことにも気づき、

「でもな針井……」

「……もういいよ、タイト」

 食い下がろうとする俺の肩に手を置いたのは、コピーしたビラを持った宗谷だった。

まさか今の聞いてて……と内心ドキリとする。なんかいつもよりキツさが消えた感じがして

……俺を真っ直ぐ見てることに気づいた。

巫琴

「シャノンは向こうのクラブの方が真剣なのよ、それもわかってあげよ」

「だけど……あいつ辞めるってまで」

「まだ決まったわけじゃないでしょ?シャノンが頑張って1人呼んできたら、

 こっちも手伝ってくれるわよ」

 なぜか今日の宗谷は潔い……針井がいなくなってもいいと思っているのだろうか、それとも

きっと残ってくれると信じてるんだろうか……そうだな、夜の道ばたでも弾いてる奴が

バンド捨てたりしないもんな。

「ほらタイト、あと3人分呼ばないといけないんだから、頑張って配る!」

 そうやってビラの半分を俺に渡す宗谷は心なしかかわいく見えるのは……宗谷に対する俺の

考えが変わったせいか、はたまた逆か……なんかよくわからない気分ながら、とにかく一緒に

ビラを配ることにした。

 ……まさか針井、俺に変な魔法とかかけたか?(ぉ まあこれでもいいけどね……


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