恋愛下手


 月曜日。実家からだったのでいつもより早く家を出る。寝覚めは良かったが、気分は最悪……

あんなことを言った後だから顔を合わせづらい。クラスが同じだから嫌でも会うからな、

来年は違うクラスになってくれたらいいのだが……マンションも、親父に頼んで引っ越そうかと

思うくらいだ。まあ昨日のことは親父にもまだ言ってないんだけどな。

 

 マンションの自分の部屋に戻って、身支度を整える。いくらか気分を落ち着かせて――

今日学校で会った時は、「昨日は言いすぎた」って謝ろうかなんて考えてみる。だからって

俺の考えは変わるもんなんじゃないけど……まだ整理はついてないが時間なので部屋を出る。

「……あ」

 扉を開けてすぐ、彼女の姿が見えた。自分の部屋の扉に寄りかかってまるで俺を待って

いたかのように……俺の機嫌を直したいということなのか?なんかまた彼女の行動全てが

計算ずくめに見えてきやがった……声をかけるタイミングを失った俺は、彼女を無視して

先へ進んだ。エレベーターは使わず階段で。

「あっ、テツくん……」

 しばらくの間のあと、俺と同じように階段を下りてくる音が聞こえてくる。エレベーターを

使わずにな……

 

「テツ、おっは〜!」

 交差点で、相変わらず能天気の佑馬のあいさつ。もちろん七希菜ちゃんも一緒だ。

「……おう」

「なんだよテツ、元気ないなあ」

「お前があり過ぎなんだよ」

「あ、列戸さんおはよう」

 七希菜ちゃんが、俺から少し遅れて来た後ろにいる人物に声をかける。佑馬たちには

余計な気を遣わせたくないから、俺たちが仲悪くなってるのはできるだけ知られたく

ないんだけど……だったらそれ以前に仲悪くなるなってことなんだろうけど、あの時の俺は

そこまで「計算」することは出来なかったからな……

「おはよう……」

「なんか、列戸さんも元気ない?」

 こういうときに限って佑馬は鋭い。佑馬がいつもよりも増してハイテンションだからか?

「もうすぐ春休み♪そしたらみんなでどこか遊びに行こうよ!」

 いつもは「七希菜ちゃんと二人で」なんていうくせになんで「みんなで」なんだよ……

だんだんと悪い方へ悪い方へ流れてる気がする……これは誰のせいなんだ?

「う、うん、行こう、ね、テツくん?」

 彼女が俺にふった。俺が嫌でも肯定すると思ったからだろう。だがそこで信号が変わって

周りの生徒たちが歩き出す。俺は聞こえない振りをして歩き出していた。というか3人を

無視する形で歩いていた。きっと佑馬と七希菜ちゃんは不思議そうに思っているだろう。

そして彼女は・……考えるのもそろそろ面倒になってきた。でもしばらくは頭から離れそうに

ないんだろうな。

瞳由 & 佑馬

 

 昼は食堂だ。彼女はいつも弁当なのでさすがに来ないだろ……と、また彼女のことを

考えてしまう。考えてしまうと悪い方向へばっかり考えてしまうので忘れていた方が

彼女にもいいのだろうが……授業中も彼女のことばかりで他のことは覚えていなかった。

「……テツが悪い!」

 突然声をかけられたので振り向くと、佑馬だった。いつも七希菜ちゃんにあわせて弁当を

持ってきているのだが、その弁当を食堂に持ってきている。七希菜ちゃんはいないようだが……

「列戸さんから聞いたんだよ」

「……お前たちに話したのかよ……」

「ほら、またそういう言い方するー」

 佑馬は俺の隣の席に座って弁当の包みを広げる。わざわざ母親に作ってもらっているのだが、

七希菜ちゃんとの仲を話すと快く了承したらしい。いろんな意味うらやましいよな……

「列戸さん、泣いてたよ? よっぽどひどいこと言ったんだろ」

「彼女から聞いたんなら、それが全てだろ。俺が言うことでもない」

「いや、男同士でしか話せないこともあるよ」

 佑馬が男同士なんて言うのはなんか説得力ないが、なんか真面目な表情なので一応のって

やることにした……俺のために頑張ってくれてるのだろうが。

「僕が七希菜に告白する前、テツはいろいろアドバイスしてくれたじゃないか」

「まあ……アドバイスになったかは知らんが」

「その前からも、僕は七希菜にもっと好きになってもらいたいためにいろんなことをした」

「知ってるよ、七希菜ちゃんの誕生日とかクリスマスとかにな」

 七希菜ちゃんの好きな著者の本を小遣い前借りしてまで10冊くらい買ってプレゼントしたり、

見たいといった雪だるまを一人で作って次の日風邪ひいたり。そこまでするかね……と思うほど

だったのだが。

「そういうのって……異性に気に入られるためになにかするって、自然なことだよね?」

「自分で言ってるのはどうかしらんが……まあそうかもな」

「じゃあ今の列戸さんがやってることも、同じじゃないかな」

「違う」

 俺がそこで即答で否定するとは思わなかったのだろう、佑馬はキョトンとした表情になる。

「お前のは、素直だ。後先考えず気に入ってくれるだろう、くらいでやってたから、

 バカ正直で俺はそういうやりかたは好感が持てた」

 呆れるほどでもあったけど、それは佑馬らしいとは思ったから俺も手伝ってやったんだ。

「でも彼女は……素直じゃないやりかたで俺を惚れさせようとしたんだ、やり方が……

 えげつないというか」

 えげつないという言葉自体えげつないんだけど、強調するためにはその言葉しかでなかった。

佑馬は珍しく考え込むような顔をしていたが、顔をあげ

「相手に好きになって欲しいと思う気持ちは、同じなんじゃないかなぁ」

「そうかもしれないけど……やり方が」

「そんな、恋愛のやりかただけで人が決まるものなの?」

 佑馬に言われて、ふと頭をよぎったのは、普段の彼女だった。クラスメイトとも親しく

話をしてるし、男子にも人気がある。クラブで長く一緒にいた北野は惚れてたもんな……

考えてみれば、友達としては最高の性格なんじゃないか?そう、友達づきあいはできるけど、

その分恋愛の方は下手で……どう接したらいいかわからず、慎重になりすぎていろいろ考えて

しまって、計算ずくめになってしまったとか……でもこれも憶測だ……

「相手に気に入られることができるかで恋愛上手とか恋愛下手とか言うけど、僕はそんな

 上手下手は無いと思う。あるとすれば、相手に好きになられたときに、自分も相手を

 好きになろうと努力できることが恋愛上手なんじゃないかな」

 好きになろうと努力、か……ユマのうんちくはまだ続いたが、この言葉が印象に残り

他は耳に入らなかった。彼女のやり方も認めるべきなのだろうか、いや認めるなんて俺が

えらそうに言うことじゃないのだろうか……佑馬のお陰で考えは改められそうだが、

まだ一人で考える時間がいっぱい要りそうだ。答えを出した時には――例えNOだったとしても、

彼女を傷つけないように伝えたい。できれば、YESと答えたい……と思っているのに、

何故出来ない……やはり俺は「恋愛下手」なのだろうか。


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