勉強会


「ようこそタイト君、列戸さんも」

 玄関を開けたのは七希菜ちゃん。その家の人だから当然だが。靴を見ると、佑馬も既に

来ているようだ。近所同士だし当然か。

「お邪魔しま〜す」

「……お邪魔します」

 瞳由ちゃんにつられて俺も言う。中学の時には佑馬に誘われてよく彼女の家に行ったが、

ほとんどがこのようなテスト勉強の時だ。なんで俺が誘われるというかと、佑馬一人では

彼女の家に行く勇気がないからだ。……だから進展しないんじゃ?

 階段を上がるのは七希菜ちゃん、俺、そして初めて来た瞳由ちゃんの順。確か左側が

七希菜ちゃんの部屋だ。ちなみに彼女は一人っ子だが、わがままとかにならずに良い女子高生の

鑑みたいな性格になってよかったな両親(笑)そういえば瞳由ちゃんに兄弟はいるのだろうか。

「お、やっと来た」

 彼女の部屋の真ん中にある大きなテーブル(今日のために持ってきたのだろう)に向かっている

片手にせんべいを持った佑馬がくつろいでいた。テーブルの上には教科書やらノートやら

辞書やらが広がっていて、既に勉強を始めていたらしい。

「やる気まんまんみたいだな」

「んなわけないって、無理矢理詰め込んでるよ」

 俺も佑馬も一夜漬けタイプだから同じところをよく間違う。まあ全くしないよりはマシだが。

あまり成績が悪いと部活停止とか罰があるみたいだし。この前までのように部活に入ってなけりゃ

どうなのかは知らんが。

「で、何からやってんの?」

「英語ですね、文法と熟語を」

 俺の苦手なもんばっか……授業中半分聞いてないというのも理由の一つなのだが……中学の時は

簡単だったのに急に難しくなってやがる。それでやる気なくしてしまった。とりあえず皆

腰をおろすのだが、授業で使うワークブックを眺めてみても出来そうなものがほとんど無い。

でも皆できる問題を質問して馬鹿にされるのも恥ずい……まあこの面子なら別にいいんだけど。

何だよ……"He is quite different from what he was a few years ago."って。

「なあここってどう訳すんだっけ?」

 一番似たり寄ったりな佑馬に聞いてみる。

「そりゃここは……忘れた」

 忘れたっつーか覚えてねぇだけだろ。俺もだが。

「瞳由ちゃんはどう?」

「ええと、このwhatは関係詞だから……」

 瞳由ちゃんの方が勉強してるようだが、わからんもんはわからん。

「『彼は2・3年前の彼とは全く違う。』what=the man thatとなってるんですね」

 七希菜ちゃんはさらっと答えてしまった。やっぱ文系の方が英語得意か?でも佑馬できんし。

「さすが学年……」

「さっすが学年トップ取るだけあるよ七希菜は!」

 瞳由ちゃんが誉めようとしたところにかぶって佑馬がわざとらしく大声で誉めたたえる。

別に瞳由ちゃんに対抗して言ったわけではないのは当然だが、瞳由ちゃんの目が点になっている。

 しばらく英語をやっていたが、ほとんど七希菜ちゃんがリードして勉強が進んだ。その後の

数学は俺が教える方に回れたが。国語、主に古典は意外と佑馬ができる方である。そして

瞳由ちゃんは化学で冴えていた。地歴は選択制なので皆バラバラだが、他のは丁度分担できた。

 休憩時間、俺たちが来る前に七希菜ちゃんが焼いていたケーキがいい具合に冷めたようで、

紅茶・コーヒーとともに頂くことに。出てきたのは佑馬の好きなチーズケーキ。どうせ佑馬が

注文したんだろうが。しかし前のは見た目こそまだまだだったが、味はよかった。それが今のは

見た目も味も市販のと大して変わらないのではないか。まあそうケーキを食べてるわけでもないし

味覚に自信があるわけでもないのだが。

「……うまい!!」

 またやたら大声でわめく佑馬。好きな娘の手作り料理なら、とんでもないものでなけりゃ

なんでも美味いと感じると思うが……そんな料理マンガの試食人が見せるような至福の表情で

言わなくても……大体何度も食べてるだろ。その次の台詞も決まってるし。

「こんな料理を作れるなんて、七希菜はいい嫁さんになれるよ!」

 ほら来た。最高の誉め言葉で好意を寄せていることをアピールってか。でも毎回言ってると

飽きられるぞ。まあ七希菜ちゃんは「ありがとう」って言ってくれるんだけどな。

「……そうかなぁ」

 だが、返答したのは意外にも瞳由ちゃんだった。

「私は、旦那さんも料理してくれたら嬉しいなぁ、一緒に作るとか」

「そうね、それもいいわね」

 七希菜ちゃんも同意。意外な伏線に敗れる佑馬。頭の中は真っ白になっているだろう。

別にフラレたわけでもないのに。

七希菜 & 佑馬

 

「それじゃまた学校で」

「さようなら」

「じゃ」

「バイバイ……」

 一人帰る佑馬の後姿はかなりボロボロに見えた。しかも夕日にかすんで見にくい。

「何かあったのかなぁ……?」

 自分の言葉のせいとも気づかずポカンとする瞳由ちゃんであった。


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