からみ


 今日はテストの2日目、理科と社会だ。はっきり言って勉強はほとんどしていない。

得意だとか自信があるとかではないが、それほど悪い点を取ってしまうこともないかと

タカをくくっているからだ。……本当にそうなることを願おう。

 1時間目は瞳由ちゃんの得意な化学。開始前に一緒にちょっと確認し合ったのだが、

その場所が意外にも問題にでていたりしてびっくりだ。やるな瞳由ちゃん、やっぱ女の方が

カンが鋭いって本当だな。

 2時間目は物理・生物・地学のうち1つ選択。俺は物理だが、瞳由ちゃんと佑馬は生物。

生物は解剖とかグロテスクっぽいのが苦手な七希菜ちゃんは、あまり誰も選ばない地学だ。

文系は物理を選べないし。というわけでこれは一人で勉強しなければならなかったが、

まあ公式を暗記すればいいんじゃないかな、逆に1つでも忘れると全く解けなくなったりして

怖い教科だ。ま、そこそこ取れるでしょ。

 3時間目・地歴。また例のごとく、瞳由ちゃんは日本史、佑馬は世界史(なんでも中世

ヨーロッパに憧れているとか。RPGのしすぎだ)、俺と七希菜ちゃんは地理。人名を漢字で

書かなくてすむから俺は地理にしたんだけど(俺自身のトラウマか?)、七希菜ちゃんは

戦争の話を聞くのも嫌いだとのこと。でも地理だって宗教間での紛争とかでるんだけどな。

問題の方は、かなりマニアックなことがでていて全然わからないものもあるが、そこまで

勉強している奴もいないだろう、地理には。センターみたく得点調整があるとありがたいのだが。

 

「うぃ〜〜終わった……」

「お疲れ様」

 地歴のテストも終わって背伸びしていると、荷物を持った瞳由ちゃん。昨日はこれで帰ったのだが。

「公民受けるの?」

「うん、一応ね、現代社会とか」

 現社は一番予習しなくていい教科だと思っている(つーかしようがない)。問題を見てみたことが

あるが、案外地理と近いもんがあったりする。俺はやる気ないが。倫理の哲学者は世界史でも

出てたりしてな。一番面倒なのは政治・経済か。

「そっか、じゃ頑張ってな」

「ありがと。」

 教室を出て行く彼女。公民は教室ではなく別の部屋に生徒を集めて試験をしているようだ。

 さて、昨日と違って1教科にかける時間が少ないので今日はまだ昼まで時間があるのだが、

もう飯にするか。朝は食パンしか食ってないし。さっそく食堂へ向かうか。といつもは階段を

降りて1階の廊下を渡っていくのだが、今日は2階の廊下はガラガラだったので、そっちを

歩いていくことにした。他の教室にはそんなに生徒がいないのをみると、結構公民を取る生徒が

多いようだ。あるいはさっさと帰ったとか。登下校に時間がかかる生徒は弁当を持ってきて

先に食べておくというのも聞いた話だが。というわけでかなり静かだ。

「あんた、またパンなの?」

 ので、女性とのぼやきがかなりはっきりと聞こえた。ビーマニのし過ぎで耳が遠くなってないか

心配だったが、ちょっと安心したかも。

「おべんと作ってないってことは、料理クラブ行ってんのに全然上手になってないってことね!」

 ……なにやら険悪なムードだな……女子間のいざこざは男子の出る幕ではない。ここは早足で……

「ったく、あおいはなんでもグズね!」

 そこまで言うことないだろ、かわいそうだろあおいちゃんとやら……あおいちゃん!?

通り過ぎかけて思いっきり体をそらして他教室を覗き込む。ここは22HR、佑馬は23、

七希菜ちゃんは24(進学クラス)だったな。それはおいといて、確かにあおいちゃんだ。

机にすわっていつものパン「スイートブール」を食べている。その机に手をついて叫んでいたのは

女子にしては背が高い方、怒っているのを差し引いてもかなり目つきがキツイ。彼女のことは

よく知らないが、あおいちゃんには面識があるのでほうっておけない。でも俺も喋れるほうじゃ

ないから、どうやって割って入ろう……

あおい & 恵理

「あんた、何見てんのよ」

 そうこう考えてるうちに、高い女に気づかれてしまった。しかしその分あおいちゃんもこっちを

見てくれた。さっきまでさんざん言われても無反応だったのが、ちょっと変えたような気がする。

「……タイトさん」

「何あおい、あいつの知り合い……?」

 あおいちゃんの言葉から推測してさすがに気まずくなったのか、食べようと思っていた自分の

弁当をかばんにしまい、こっちを全く見ずに教室を出て行く彼女。なんだよあれ……とりあえず

あおいちゃんを助けられたか。

「何あれ、イジメ?」

「益田 恵理(ますだ えり)さんです……」

 またボソっというと、またパンを一口。

「ちょっとは言い返せば?」

「あまりそういうのは……得意じゃないから」

 いや、得意不得意の問題じゃないんだけどな……というかまた食べてるし。俗に言う

『色気より食い気』か……それは男に言う台詞だっけ?

「ま……俺がでしゃばることでもないけどな。そいじゃ」

 会話も続きそうになくてここにいられる空気でないような気がして、帰ることにした。

手を振るとパンをくわえながらも手を挙げてくれた。彼女の机にかかっている鞄には、

あの丸いぬいぐるみがつけられていた。


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