結構高そうな車だな、3ナンバーだし。
「あら、あなた……」
出てきたのは、さらっとしたロングヘアー、すらっとした容姿、まるで女優のような……
つーか女優だな、やまふじあいこ――本名は山藤 藍子(さんとう あいす)だっけ。
「確か……タイト テツ!」
「ああ、そうだけど……」
よく覚えてたよな、女優だけに台詞とか暗記は得意なのか。それとも芸能界では先輩の名前は
忘れてはならない掟とか。そりゃ先輩なのは間違いじゃないだろうけど……
「あ、呼び捨てごめんなさい(^人^;」
「いや……あれマネージャーとか?」
彼女を降ろした車は、すぐに走っていった。彼女が運転するわけでもないし、そう考えるのが
妥当だろう。親という答えもあるが。
「ええ、移動時間考えて混んでない道選ぶの上手なの」
「やっぱ学校終わったらすぐ迎えに来て、すぐ仕事?」
俺が言ってる間に彼女は大きなあくびをしたが、昨日も(今朝まで?)仕事が一杯だったのだろう。
俺の話がつまらんということではあるまいな……
「そーなの。でも学校の中では普通の女の子ね(^^)」
この学校は単純に1階が1年の教室、2階が2年……となっている。階段の前で彼女と別れた。
教室に向かう彼女の周りには、早くも他の生徒が集まりつつある。男女ともに人気の彼女だ。
やっぱり男子の方が多いんだけど。
「――おい」
急に真後ろで図太い声がした。わざと低い声を出してるというか、脅すような感じだ。
多分そういう意味だろう。どこで聞いたのかも思い出した。振り返れば……かなり目前まで
接近して仁王立ちしている3年生……彼女と出会ったときにケンカ吹っかけてきた、
ファン団体のリーダー格だ。今は奴一人だが。
「何あいこちゃんに近づいてんだよ」
これも予想はしていたが胸倉をつかまれる。体がでかいので力もある。俺だってやられっぱなし
ではいられないのだが、今は何となくそういう気分ではなかった。何とか落ち着かそうと試みる。
「いや、偶然出会って、向こうから話し掛けてきたんだって」
「ウソつけ!あいこちゃんがお前なんぞ相手にするか!」
「なら彼女に聞いてくれよ……」
朝は低血圧なんでキレるにキレられず……なんでコイツは朝からハイテンションなんだよ……
「もし出鱈目だったら、サンドバックにしてやるからな!!」
つかんでた手を突き放すと(なんとか踏みとどまる)、彼女のいる教室へのしのしと向かって
いった。本当に聞くつもりか……事実なんだけど。というか結局彼女に会いたいだけか。
「大丈夫やったか?」
また後ろから声が。今度は訛った声だ。これもすぐわかった。
「上久部長」
なにやら会社でいるように呼んでしまったが、クラブの部長なのだから仕方がない。
関西弁の3年生だ。
「あいつ荒井田 三郎(あらいだ さぶろう)てゆう奴なんやけどな、名前の通り荒々しい男なんや」
いや名前、つーか苗字は関係ないと思うのだが……学校でも有名な荒くれ者ってわけか。
しかもあいすちゃん(ちゃん?)のファンってか。……そういえばあいつ、彼女のことを「あいこ
ちゃん」って呼んでたな……やっぱりアイドルとしての彼女が好きなんだろうな。彼女は
学校ではそう思われたくないというのに。
「とにかくアイツに目ぇつけられたら、悪いこと言わん、下手に出たほうがええでぇ」
なんか面倒なことになったな……俺は別に彼女に下心を持ってるわけでもないのに。
荒井田にはっきり言ったとしても納得しそうにないし……だからって彼女を拒否するのも
気が引けるし。
「ああ、忠告ありがとう……」
とりあえず礼を言ってから2階と3階の階段で別れる。あー、なんか鬱だー……脅されて
いるわけじゃないから俺も対抗しようと思えばできるけど、問題行動になって停学とか
退学とかになっても困るし……ああ、もう考えるのやめた。何か起こってから考えることにしよ。
「テツ君おはよっ」
ああ、癒しの瞳由ちゃんだ……彼女を見てるとなんかほっとするなぁ……
「あれ、襟元乱れてるよ」
さっき荒井田につかまれてくずれた襟を、彼女が腕を伸ばして直してくれようとする。
が、その前に自分の手を襟にやってから慌てて
「あ、じ、自分でするって……」
さすがにハズいって、母親と子供じゃあるまいし。いや、夫婦……もっと恥ず(*・_・*;