聞いてみた


「おはようタイト君」

 朝、学校への交差点で七希菜ちゃんと出会う。それはよくあることだが、今日はいつもの

もう一人はいなかった。

「佑馬は?いつも一緒なのに」

「今日はお休みみたいです」

 ちょっとうつむき加減で答える彼女。そういえば佑馬はああ見えて結構病弱だったりする。

ズル休みとかする奴でもないし、むしろ七希菜ちゃんに会えないから休みたくないのかも。

「しかし病気だからって、高校の授業は1回でも休むとついていけなくなるぞ」

 かくいう俺も小学生の時は休みがちだったが(誰でもそうか?)、久しぶりに登校すると

得意の算数もわからなくなってたりしたからな、高校の授業となるとその比ではないだろう。

「でも無理はいけませんよ、佑馬君がわからない所があれば教えてあげましょう」

 さすが七希菜ちゃん、優しいのな。それだからか知らんが、猛犬といわれている飼い犬でも

彼女には甘えてくるという伝説があるからな。伝説っつーか俺もその場にいたんだけど。

彼女自身は動物飼ってないけど。

 佑馬には悪いが彼女と2人で学校へ向かう。彼女は学年で多くの男子に人気があるからな、

その点で言えば山藤 藍子といい勝負だ。(てことは佑馬は荒井田と同じ?複雑……)最近は

男子どもは女優の方へ傾きつつあるらしいが、その分佑馬はほっとしているらしい。ライバルが

減るとか。つってもいつも一緒にいるから、すでに2人は付き合ってるのでは?と思っている人も

いるようだ。全然まだなのに。しかし――それだけのウワサ、七希菜ちゃん自身も知らない

はずはない。女友達がはやしたてていたりして。

「……なぁ、七希菜ちゃん」

 周りをちょっと気にしてから、思い切って訊ねてみた。

「佑馬の気持ち、気づいてるよなぁ」

 真面目な言い方ではなく、ちょっと軽く言ってみたが、彼女は下をむいたまま歩いている。

意味がわからなければそういうだろうから、質問の意図はわかっているようだ。

七希菜

「佑馬とは中学からの友達だから、あいつが振られるよりは彼女ができて俺に自慢してくれる

ほうが俺も嬉しいし、それが七希菜ちゃんだったら、もっと喜べるんだけどな」

 かっこつけのように見えるが、本心だ。そりゃそうなったらちょっとはからかってやろうとは

思ってるけど。

「わからないんです……」

 ぽそりと七希菜ちゃんが呟いた。戸惑いの表情が見える。

「ま、恋愛って言っても俺もわからんしな、好きとか恋とか愛とか」

「それもあるけど……今まで一緒にいた時間が長いから、好きとかいう考えが出ないというか、

一緒にいるのが普通だと思ってしまって」

 そうか、俺もさっき佑馬がいなくて不自然に思っちまったし。たまに会えるからこそ、

会いたくなるというか、いつも一緒だと飽きてきたりするし。まあ彼女はそうは思ってないが、

やっぱり「一緒にいたい」と思うのが恋なんだろうか。それだと彼女は佑馬に恋できない……

「佑馬もな、そんなに七希菜ちゃんにベタベタしてるから、逆に進展しないんじゃねぇの?

あ、別に無理に佑馬の彼女になれってわけでもないけど」

「佑馬君が私を大事にしてくれる気持ちは嬉しいです。できれば私も応えたいです」

 ……やっぱいい娘だな、佑馬にはもったいないくらいだ。いや、別に俺が、ってわけじゃ

ねえけど。そんなことすりゃ佑馬に殺されかねん……彼女のことに関して一番信用してくれて

あいつと付き合ってるんだからな。

「まだそういうこと話す時期じゃなかったかもな、悪りぃ」

「いえ、暗い話になってすみません……」

「いいって、俺も七希菜ちゃんと同じだよ」

「え、それじゃタイト君も気になる人が……」

 いきなりこっちに振られて今度は俺が困る番に。一人の女の子の顔が浮かぶが、ここはなんとか

平生を保とうと試みる。

「ま、まあ普通に恋ができたらいいな、ということだよ。特定の人じゃなくて」

 なんか「誰でもいいから」みたいでナンパ野郎みたいな答えになってしまった……俺って口ベタ

……でも彼女はわかってくれるだろう。佑馬ほどではないが、俺ともよく話する方だしな。

 

 彼女と別れて教室へ。このクラスは欠席する生徒もほとんどいない、健康な奴ばっかだ、

本当は無理して授業に出てるのかもしれんが、伝染すなよ……しかし最近俺病気にかからないな、

「なんとかは風邪をひかない」というのはあるが、佑馬以下なのか?いや佑馬が風邪とは

限らんし……五月病か(それって休みボケのことだっけ?)。


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