始業式


「みなさん、春休み前に言った標語、覚えてますか?」

(んなもん覚えてねーよ……)

 校長の長ったらしい話を聞きながら、俺はあくびを噛み潰した。体育館で全校生徒が

整列しての始業式。まあどこの学校でもそうだろうが。今縦に並んでるのは、去年度

までのクラスメートたち。これが終わったらお楽しみのクラス替えだ。……別にどのクラスに

なろうが俺には関係ねぇけどな、進学クラス目指してるわけでもないし。

 ウチの高校は私立なのに案外公立中学と似たようなところを見ると、公立高校と大して

差はないんだろう、じゃあなんでわざわざ家から遠い高校を選んだかっていうと、この学校は

「クラブ推進校」ってところに惹かれたからだ。他学校と授業数は同じながら、補習が無く、

大学入試とか大事なテスト以外では部活は休みにならないという熱の入れっぷり。しかも生徒は

最大2つまで所属できるとのこと。それでなりたってるのかというと、大会なんかで新聞に

名を残していたりもする。もちろんその分勉強の方も手は抜かれないのだが。

 しかし結局の所「補習なし」が大きいかもな、つーのはあまりにもサークルの数が多すぎて

どれに入ろうか悩んだ挙句、今だどこにも所属してないし。つーか放課即ゲーセンなんだけど。

さすがに「TVゲーム部」ってのは無いがな。「アニメ研究クラブ」はあるが。

まあ別に強制ってわけでもないし。でも友達は増えんかもな、佑馬は家業が将棋盤屋だし

本人も将棋好きだし、あいつの兄さん――佐龍(さろん)さんだっけ?プロになるとか聞いたな。

とにかく将棋部だ。七希菜ちゃんは文学クラブと料理クラブの両……「りょうり」つ……

 …………あ、校長やっと終わったか。足疲れた……これで1年の教室に戻りゃ、2年の

クラス分けが発表されてんのね。つーわけでなぜか早足で体育館を出る俺であった。

 

(なぜこんなに群がるのだろう。自分のだけ見てとっとと去れや……)

 トイレに寄ってから教室に帰ってみると、既にクラスメートはクラス分けの表の前で

わいわいがやがややってた。というわけでなかなか表が見えない。荷物もってさっさと

2年のクラスに行きたいのだが。それなら割り込んでいけばいいのだが、俺はでしゃばる

性格ではない。やっと人数が減ってきたので、後ろから背伸びして見ることに。

 まあ俺の名前は必ずカタカナで書かれてるだろうから見つかるのも早いし。例え漢字で

書かれててもそっちの方がもっと見つかりやすいし。今だに漢字で書かれたのを見たことが

無いんだけどな。……ほらあった、7組だ。27HRか。他の名前は見ずに自分の荷物をもって

さっそく27HRを目指す。階段を一つ上がれば2年の教室ばかりだ。2年から3年に上がった

人たちは更に上の階へ上がったようだ。さすが先輩方。

 27HRの入り口の扉にも、その教室の生徒の名前が書いてある。その名前さえ知ってれば

いいのに――でもそれで他のクラスの奴らは知らなかったりする――周りに誰もいないので

じっくり見る。1年ときのクラスメートもいるが、そんなに親しい奴ばかりでもない。

中学からのは……お、武市がいるな、パソコンサークル所属の武市 隆等(たけいち たから)、

気の弱い奴だ。つーか出席番号俺の次じゃん、さっきの教室できづいててもよかったかも(^^;

 あとは……女子……の方がもっと知らん。1年のクラスメートでも今だ覚えてない娘いるし。

どうせ向こうから声かけてくれる娘じゃないと興味ないし。つーか俺が声かけれないだけ。

こう見えても硬派なのだ(違)。というわけで女子は全員、全く知ら――

『40番 列戸 瞳由』

「れ……!?」

 つい大声を上げてしまって、周りの視線を集めてしまう。そしてなぜか首をすくめる。

というかそんなことはどうでもいい、あの娘が同じ学校というのは予想はしていたが、

同学年、しかも今同じクラスになるとは……

 はっとして振り返る。もうすぐ彼女がこの教室にくるのではないか。27HRの中にはまだ

半分も入っていない。武市は来ていたが彼女はまだだ。俺はとりあえず武市の前の席に荷物を

置き(初日は出席番号順だから)、再び廊下に出る。きっとあの階段から上がって来るだろう。

何人か違う生徒を見送ると、実際に本人が見えてくる。セーラー服を着た彼女が。

そりゃ学校だから当然なのだが。

「あっ、テツくん」

 向こうも名前を覚えてくれているらしい。まあクラス分けの表の名前を見たのだろう。

瞳由ちゃんは手を振りながら小走りで近づいてくる。俺の目の前で立ち止まると、

瞳由

「何で名前カタカナなの?」

「い……いきなりソレですか……」

 外国人やハーフでもなけりゃな……いやハーフいたか、まあそんなことは置いといて、

名前のことについて語りながら2人で教室に入った。一体今まで何人の人に自分の名前を

説明したのだろう、どうして親はこんな名前を……いや苗字も濃いのだが。つーか説明も

したくないのでここでは割愛するが、彼女――瞳由ちゃんも驚くような漢字だ。

「そんな漢字あるの!?」

 そんな感じだ……いや、なんでもない。

 今日は先生の話だけで放課。役員決めは明日だ。にしてもこの先生どこかで見たような……


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