雨天順延


 今日は朝から雨だった。梅雨だしな。まあ途中から降るよりは、傘を忘れる心配がないから

いいんだけど、やっぱり面倒だと思うよな。

 そんでいつもの交差点。いろんな色の傘がいっぱい並んでいる。もしかしたらこの中に

佑馬たちがいるかもしれないが、それぞれ顔が見づらいのでわかりにくい。こっちから見えやすい

ように傘の角度を変えてみた(もちろん、濡れないギリギリで)。

「あっ、タイトさん……」

 まさかいきなり隣で声をかけられるなんて思いもしなかったので、ビクっとしながら振り向く。

しかもそこにいたのは予想もしなかった人物だったし。

「あ、あおいちゃん……」

「おはようございます……」

「お、おはよう」

 信号が青になったのか、傘たちが動き出す。俺たちも同じように歩き出した。俺は黒の

折り畳み傘、あおいちゃんは透明の傘を左手に持っている。右手の鞄には、あの丸いのが

まだついていた。それが濡れないように気遣っているようにも見えるが。

「タイトさんは、雨は好きですか?」

 珍しく彼女の方から話し掛けてきた――といってもそんなに話をしたことないんだけど。どうも

彼女はあまり喋らないように思ってしまうんだよな。ボソボソっとは喋るんだけど。

「んー、室内にいるときは降っても別にいいけど、こういう時間帯の雨は嫌いだなぁ」

「私は、夜の雨が嫌いです……」

「……なんで?」

 俺からしてみれば夜はあまり外出しないので(たまにゲーセン行くけど)、降っても別に困りゃ

しないんだけど。まさか彼女が夜遊び好き、には見えないし。むしろ風情があっていいと思う。

ほら清少納言が枕草子で言ってるじゃん。ってこういうことだけは覚えてるんだよなぁ(^^;

「私、天文クラブにも入ってるんです……」

「そうなん?それだったら……星が見えないよな」

 傘の集団は既に校門をくぐっている。アスファルトの地面は水を吸収していて大丈夫だが、

土のところは至るところに水溜りができている。

「星とか見るの好きなんだ」

 星ねぇ……眼鏡をするほど悪くは無いが、そろそろ裸眼ではきついかな、くらいの視力の俺は

空の星をあまりマジマジと見たことがない。よくあるのはビーマニの難易度の星くらいだが。

「流れ星も何度か見ました」

 流れ星といえば願い事。消えるまでに3度も言えるはずが無いんだけどな。そういえば

『金!金!金!』というネタがあったな(笑)しかし意外と彼女もロマンチックだったんだな――

ってまた勝手に思い込んでしまっていた。同じ夜のクラブでもオカルトの方のイメージが。

あおい

「いつぞやのニュースで流星群が、ってのがあったけど、あれも見たの?」

 こくりとうなずく。下駄箱の前まで来ていたので傘を畳み水を払う。彼女は傘立てに、

俺は折り畳みだから鞄に。どうもそこに立ててると誰かが(故意でないにしろ)持ってっちゃう

ような気がするんだよな、俺小心者……

「あの日はぐっすり寝てたからなぁ、最近流れ星見てないなぁ」

「流れ星って、毎日降ってるんですよ……」

 そういえば聞いたことがあるような……あと流れ星って本当はめちゃくちゃ小さくて、それが

大気圏の摩擦で燃えるだけで、あんなに光って見えるとか。その流星群が降った前後の日の

ニュースで専門家がいろいろ言ってたなぁ。

「やっぱ見るのにもコツがあんのかなぁ、知ってたら教えてよ」

「よかったら……今度部室に来ませんか……」

 気が付けば階段を上って2階まで来ていた。習慣ってのは怖い……は置いといて、天文クラブの

部室ってのは、やっぱ屋上にあるんだよな。この学校はそれがあるためか屋上出入り禁止って

ことにはなってないようだ。もちろん金網は高く張ってあるけど。

「行ってもいいけど、他の人の迷惑にならないかな、星の観測って結構集中力いるんだろ?」

「大丈夫です、皆さん優しい人ですから……」

「そう?なら……今度晴れた日で暇があったら」

 

 とは言ったものの、この先晴れた日なんてそうそう無い。しかも夜更かしするので金曜か

土曜に限られるよな(私立なので完全週5日はラッキー)。週間天気予報では確か週末は雨……

しばらくは行けそうにないな。そりゃ雨の日に行っても仕方ないんだけど。もちっと早く

お誘いがあったら、すぐにでも見れてたろうに。急に夜の雨が恨めしくなってきたぞ……


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