ボーカル


 雨の日は続くが、体育系クラブが少ないこの高校は部活動はあまり滞りがない。俺の所属する

バンドクラブは、意外にも順調だ。というか針井の奴もう完璧に弾きこなしてやがる。やる気

なさそうに見えて一番バンドに積極的だから、家でも弾いてるのだろう。針井の家って、なんか

大きそうな感じがするな、地下室とかあったり。防音がしっかりしてる部屋で練習してたりな。

上久部長だってほとんど遜色ない。さすがに24連打のところはたまに抜けるけど。形だけ入部

してる、ってわけでもないだろアンタ、そういう謙遜の仕方もあるんだな。

 問題は俺……は当然か。たとえキーマニができたとしても、全ての音について長さもしっかり

押しとかなければならないし、余計な音も出してはならない。クリアできるだけじゃダメだ、

2人のように完璧に演奏しなければな。しかももう一人。

「声高……」

 喉が疲れたか、ぜいぜい声で宗谷がうめく。彼女は確かにいい声だが、音域は低めだ。そして

課題曲はメロディ部は高い。ラップは低いし日本語だから安定してるけど。

「音程半オクターブくらい下げるの、ダメ?」

「カラオケじゃないんだぞ……しかも下げすぎ」

 IIDXのエフェクトで音程が変えられるが、ほとんどの曲が変に聞こえるので俺はお勧めしない。

やはり元の曲の音程で聴きたい(叩きたい)からだ。だからこの高さは譲れない。

「なんか番組でやってたけど、声域を広げる特訓があるらしいな、どうやるか忘れたけど」

「でもそれって急いでやったら喉痛めそうねぇ……」

「そりゃ、まだ文化祭には時間あるけどさ、これ1曲ってわけにもいかないだろ?」

 ビーマニの曲は長くても2分、普通のバンド曲に比べて半分くらいしかない。メドレーっぽく

してとりあえず長くしないと。そのためにはいろんな曲を演奏できるようにならなければ。

なんで俺がこんなに焦ってるかというと、一番練習しなければならないのは俺だからだ。

「まだ3ヶ月もあるし、夏休みもあるじゃない、のんびり行こうって」

「せや、焦ることないで」

 部長も同意。針井は相変わらず無言でベースのメンテナンスをやっている。趣味だけのクラブ

なのか、本気なのかわからなくなってきたぞ……俺の立場はどーなんだ。

 

 数日後のある朝、学校の廊下で宗谷と合った。針井とは一緒じゃないのか。

「よ、おはよう宗谷」

「……はよ

 そのまま通り過ぎようとしたが、返事が思いもよらず小さかったので立ち止まる。

「どうしたんだよ、声……」

カラオケのし過ぎよ。友達と行ったんだけど、上手いっておだてられてちょっと 調子にのって歌いすぎちゃって

 おいおいそんなに声がかれるまで歌うかフツー……そうだから声が低くなるんじゃないのか?

声変わりするときもそうだったし。女子はどうかは知らんが、宗谷に限っては……と言うのは

俺の身のためにもやめておこう(^^;

巫琴

「ボーカルやるんだったら、自分の喉くらい大事にしろよ」

あんたが声域がどうとか言ったからじゃない、高い曲ばっか歌ったのよ

 確かに言ったが、俺のせいなのか?加減というものがあるだろうに。

それにシャノンの足ひっぱっちゃ悪いしね

 結局はそれか。なにかにつけて針井だが、あいつのいない生活なんて生きていけないとか

そんなとこまでじゃないだろうな……というかこの女の恋愛対象は器量はともかく、クールな奴

なのか?クールというよりどう見ても無愛想なのだが。俺が女だったら、あんな奴とは

付き合いたくないぞ。

「ともかく、歌えるのは宗谷だけなんだから気をつけろよ」

意外と優しいのねぇ、ありがと

 優しいっつーか、活動のためなんだけど、まあいいか。これ以上喋らせるわけにもいかないし、

宗谷と別れた。しばらくクラブは休むのだろうか?部長もやる気なくすだろうし、針井は家で

一人でやりそうだし、しばらくクラブは無いか……まあ元々ないに等しいのだが(苦笑)

 

 最近IIDXをやると、2曲目によくRislimを選んでいる。それでもランキングでそれほど上位に

ないというのは、中級者が最後の連打で失敗するのを恐れて他の曲を選ぶからだろう。同時押し

でも十分繋がるのだが、部長のドラムを思い出してGREAT狙うように叩こうとして、ミスって

落ちそうになったり。それからキーマニ3もやってみたが、今回から適当に押してもミスが

出ないのでクリアは簡単だが弾いた心地がしないな……熟練キーマー(?)が見ると馬鹿に

見られそうなのでやめとこう……


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