探し物


 久しぶりに雨でない日。「晴れた日」と言えないのがくやしい曇りの日だ。ちょっとひやっと

するが、暑がりな俺にはこのくらいが丁度いい。でも鼻水は出るんだよな……授業中でも気づけば

ほとんどの生徒が鼻を鳴らしてるし。一人がしだしたらみんなにうつるんだよな、この時期の蛙

みたいだな。

 いくら涼しいとはいえ授業はやはり苦痛だが、なんとか放課後になった。雨降りそうか

わかんないけど、今のうちにゲーセン行くかな……あ、そのまえに図書室で借りた本返しとくか、

七希菜ちゃんに勧められたシャーロック=ホームズ。さすが人気になるシリーズだ、とは

思ったな。忘れないうちにさっさと返しておこう。

 

 特に急ぐわけでもなかったが他に借りたい本もなかったので返すだけだ。自分の教室に置いてる

鞄を取ってくるため2階に戻ってくる。他の教室はもうほとんど空の状態だ。みんな部活に

行ってんだな、暇なのは俺くらいか……

 と、ある教室で変な影を見て立ち止まった。一見誰もいない教室なのだが、よく見れば誰か

床にしゃがみこんでいる。まるで何かを探してるように……多分そうなのだろうが。しかもここは

22HR。そしてしゃがみこんでいる生徒は、

「あおいちゃん?」

 なんか会うたび変な行動を取ってるような気がするんですけど、いつもこうなのか?……

ってのは失礼か、ともかく俺も教室に入ってみた。彼女も探すのをやめ、立ち上がる。

「何か探してんの?……っと、もしかしてコンタクトとか?」

 ふと考えがよぎって足を進めるのをとどまったのだが、彼女は首を横に振る。

「サテルが……ぬいぐるみが無いんです……」

「俺があげたあれ?鞄につけてたんじゃ……」

 彼女の机の上に置いてある鞄を見ると、いつもつけてある場所にあの丸いものは無い。

確か引っ掛ける所はあのヒモしかなかったから、ヒモが切れたのか?

「登校の時にはあったんです……」

 それなら朝は鞄についてたわけだ……彼女が席を離れた時に何かの拍子で鞄から落ちて、

どこか転がっていったのか?でも誰か気づくだろうし、彼女はあんな目立つものを前から

つけてたから、クラスメイトも知ってるはず……でも彼女影薄そうだから誰も知らなかったり

して?あるいは……盗まれた?もしそうだったら理由は一つ、彼女を困らせるだけなのだが、

そんな奴いるのか?いや、一人いたな。

「もしかしたら益田の奴が……」

「アタシがなんだって?」

 後ろから声。ずかずかと入ってきたのは当の益田。というか他の教室に入ってるのは

俺のほうなのだが。

「料理クラブに来るの遅いと思ったら、またコイツとイチャついてたわけ?」

 イチャ……そう見えるのか?あおいちゃんにとって俺は数少ない男子の話し相手だろうから

そう見えるのかも知れんが……あおいちゃん本人は相変わらずの表情だが。

「あおいちゃんのぬいぐるみが無くなったんだよ、益田が盗ったんじゃねぇのか?」

 普通はこういうことを言うのは遠慮するのだが、こいつには別にいいよな(ぉ

「ああ、アレ……無くなったの、ふーん」

 存在は知っていたようだが興味はなさそうだ。しかしとぼけてるようにも聞こえるな、

盗ったこと自体は否定しねぇし。

「そんなことより、さっさと来なさいよ!雑用いっぱいあるんだから」

「……はい」

 雑用って……しかし珍しくあおいちゃんの表情が一瞬ゆがんで見えたのは、『そんなことより』

の部分だったような気がするのだが。

あおい & 恵理

「それからアンタ、こんな子と付き合うのはやめときなさい」

「こんなって、何でそんなにあおいちゃんを……」

 反論する前に、あおいちゃんの手をひっぱって教室を出て行ってしまった。出る瞬間に

あおいちゃんの申し訳なさそうな視線が向けられた。気づけば誰もいないクラスに俺一人。

さすがに他のクラスで詮索するわけにもいかないし……諦めて自分の教室に戻ることにした。

 

 帰り道。あおいちゃんのことが頭に浮かぶ。俺があげたのにそう言うのもなんだが、名前を

付けるほど大事なものだったのだろう。他の人から見たらごみに見えても(例えが悪いが)、

自分には宝物だってこともあるしな。それが突然なくなったんだから彼女も気が気じゃない

だろうに、無神経にも益田が……やっぱあいつが盗ったんじゃ?他の生徒にいじめられてる

わけでもないようだし。一度益田にビシッと問い詰めなきゃならんかな……ああいうキツイ女

喋るのも嫌なんだけどな……

 雨がポツポツ降ってきた。ちょっと帰る歩みを速める。今日もゲーセンはお預けか……


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