赤い液体


 なんかやけに雨の音が大きく聞こえる……

 ふと目を覚まし体を起こす。ベランダを見れば、ガラス戸は開いていて網戸だけになっていた。

雨の音で目を覚ましたのか。昨日閉め忘れてたっけ……時計を見れば、いつも起きる時間よりも

15分くらい早かった。2度寝したかったが、気になって時計を見にいった。

 目覚まし仕掛けてねぇ……今起きてなかったら寝過ごしてたかも……血の気が引いたのに目は

冴えた。雨が目覚まし代わりになって助かったな。

 

 沖縄の方は梅雨明けしたらしい。そろそろこの雨ともお別れかな。そうなればいよいよ夏で、

入道雲が――やっぱり雨は降るのか。その後も台風だし。

 ニュースと新聞をしっかり見て、いつもの時間に家を出た。いつもの交差点は相変わらず

傘でいっぱいだ。前までは佑馬や七希菜ちゃんの傘は見分けられなかったが、今日はちゃんと

色を覚えているので見当はつくぞ。濃い青(紺色?)のが佑馬、明るいピンクが七希菜のだ。

そしてそのピンクの傘が1つ見つかった。近くに紺色はないが……

「お、やっぱ七希菜ちゃんか」

「あっ、おはようタイト君」

「佑馬は?また休みとか……」

「ちょっと寝過ごしたみたいで、後から来るそうです」

 マヌケな奴だな……一歩間違えれば俺もそうなっていたのだが。しかも佑馬と違って起こして

くれる人がいないから、遅刻決定だったろうな(汗)

 信号が青になったので、とりあえず先に進むことにした。本当に遅刻するんじゃないのか?

そう思ってた矢先、

「おーい七希菜〜、テツ〜!!」

 差した傘を振り回しながら走ってくる佑馬の姿。俺たちは交差点を渡りきっていたからいいが、

佑馬は今やっと指しかかっていた。歩行者信号は点滅してるぞ……まああのくらいなら俺も渡るし

大丈夫だろう。でもよく考えりゃ車でいうところの黄信号なんだよな……

「!ととっ……わっ!!」

 信号は渡りきった佑馬だったが、雨で濡れた地面に足を滑らせる。なんとか体勢を立て直そうと

踏みとどまったのだが、歩道の段差に足が引っ掛かり、とうとう倒れる。手はついてたため

それほど大きな怪我はなさそうだが……

「おいおい、大丈夫か?」

「てて……ああ、ちょっとすりむいただけ」

 そう言って手のひらの汚れをはたく佑馬。とかいいながら血ぃでてんじゃん……いちいち気に

するほうじゃないが、こういうときは消毒とかした方がいいのだろうか。

 と、七希菜ちゃんのことを思い出して嫌な予感がした。こういう性格の女の子は、俺よりもっと

心配するはずなのだが……おそるおそる彼女の方を見ると――傘を落として雨に濡れていた。

その顔は、普段でも十分白いのにさらに真っ白になっていた。視線はどこを見ているんだろう。

何の合図も無しに、そのままその場にくずれおる。

「ちょ、七希菜ちゃん!?」

 このまま倒れると制服まで汚れてしまう、佑馬には悪いが俺の方が近かったので、彼女が倒れる

前にその体を支えた。七希菜ちゃんはぐったりして目を閉じてしまっている。

「あ……ヤベ、見せちまった……」

 佑馬も自分の失敗に気づいたのか、心配そうに彼女をのぞき込む。七希菜ちゃんは大の「血」

嫌いで、かすり傷程度の量の血でも気を失うくらいだ。料理クラブで他の生徒が誤って包丁で指を

切ったのを見てしまって、何度も保健室にかつがれたことがあるみたいだ。つーか料理クラブ

やめた方がいいんじゃ……

七希菜

 彼女がこれ以上濡れないように傘を差しながら体も支えるのはつらいが、佑馬にやらせると

血が制服についたりしてさらにやばそうなので俺がやるしかない。それにしても……彼女が倒れる

時はいつも佑馬が支えてたから気づかなかったが、七希菜ちゃんて体軽いんだな……身長は

他の女の子に比べてちょっとだけ低いくらいだけど、やっぱ肉とかちゃんと食べてないんだろうな

……食べられるらしいけど、ウェルダンじゃないと駄目らしい。それでも女の子、男より脂肪は

ついているのでやわらかい――

 ……ってイケナイな、佑馬に悪いことを考えそうになってしまった。とにかく彼女を起こさ

なければ。学校が始まるまで10分くらいだぞ。俺は彼女の体を揺らした。

「七希菜ちゃん、起きろって」

「おいテツ、もっとやさしく……」

「……あ、タイト君……」

 頭が揺れるほどはちょっと揺らし過ぎかも自分でも思ったが、彼女は無事目を覚ましてくれた。

「あっ……ごめんなさい、私また……」

 急いで自分の傘を拾って深く差す。ハンカチを出して体を拭いているみたいだ。

「仕方ないって、誰にでも苦手なものはあるし」

「そうそう」

 俺はぱたぱたと手を振った。佑馬も手を振りかけて、あわてて引っ込める。その手は怪我してる

手だもんな……2度目はさすがにあきれるぞ……


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