衝突寸前


 暑い……梅雨が終わったのかどうかは知らんが今日はカラッと晴れて、日光が肌を射す。

教室の自分の席は教室の中央辺りなので直射日光ではないが、空気も入ってこないので汗だくだ。

まあ窓がわの人よりはマシと考えるとしかないか……これ、冷房効いてんの?やっぱ電気代節約の

ためだとかで強力には使えないのかも。先生も大変だ。

 休み時間になって暑いのに廊下をダッシュ。目指すは自販機、こういうときこそジュースを

一気飲みだ。でもどんなに喉がカラカラでもなぜか2本目は一気飲みはやる気でないんだよな。

自販機は購買の前。誰もいないので走りながらポケットからサイフを出して小銭を……

 というところで目の前に人影出現!一瞬で「廊下を走るな」という名言が頭をよぎったが、

とにかく足でブレーキをかけてなんとか衝突は避けた……が、そのせいでサイフを持っていた手が

豪快に振られ、小銭が派手に散らばってしまった。

「あちゃ〜……」

「……ごめんなさい」

 と、なぜかその人影が謝ってきた。というか、あおいちゃんだった。俺より先にしゃがみこんで

小銭を集めてくれている。

「あ、いや、俺の方が……」

 悪かったんだけど、と言おうとしたが、とにかく俺も小銭を拾う。後続で他の生徒たちが

やって来、俺たちを横目で見ながらも手伝わず、購買や自販機へ向かう……そりゃ俺だって

全く知らない奴だったら手伝わないと思うけどさ……当事者になりゃ周りは冷たいなぁ、

と思ってしまうな。

あおい

「はい……」

「ありがと、だいたいこんなもんだろ」

 他に小銭が見えなくなって、あおいちゃんが拾った小銭を渡してくれた。もしかしたらまだ

どっかに落ちてるかも知れないが、100円玉はそろってるから、10円玉くらい見落としても

大したこと無いし、彼女にもこれ以上探させるのも悪いし。何かを拾うという行動は5円の価値に

相当するとか、1円玉を拾うと損するとか思い浮かんだが。

「あ――ちくしょ、いっぱいだ」

 自分のせいなのだが、購買も自販機も行列が出来ている。休み時間が終わるまでには買えんな、

余計に汗が出てきた……そういえばあおいちゃんってあんまり汗かいてないよな、まあ汗どばっと

かいてたら彼女のイメージにも合わないんだけど。

「あおいちゃんはまたパンを?」

「はい……」

 彼女の方は既に自分のパンと飲み物を買っている。それは昼飯用なのだが。彼女も買いに来るの

早いよな、やっぱり待つのは嫌いだったり?

「そういえば今日は晴れてるけど、天文クラブあるんじゃないの?」

「……はい」

 なんか彼女の表情がゆるんで見えた。と同時に、益田に見せた怒ったような顔も思い出した。

あの丸いぬいぐるみは……見つかってないだろうな、見つかってたら真っ先に俺に言うだろうし。

でも意外と喜怒哀楽があるとわかってなんとなくホッとした。

「じゃあさ、この前約束したやつ。今日見学していいかな」

 それほど星空に興味があるわけでもないのだが、あまり行かない屋上から見るというのも

気になるし、女の子と約束してすっぽかすのは男の恥だ。逆に言えば早いうちに約束実行させて

おきたかったのかもしれないが。

「わかりました、部長に伝えておきます……」

「うん、ところで何時くらいに行けばいいかな」

 まだ高校生だから、あんまり遅くまでいると補導されるし。ゲーセンに行くと「18歳未満は

夜10時までには帰りましょう」と書いてある。それを考えると……

「8時……7時半くらいか?」

 こくんとうなづく。夏至はすぎたとはいえ、まだ日没はかなり遅い時間になっている。冬なら

もちっと早い時間でもいいのだが、寒いしな……この時期がちょうどいいかもしれない。

「よし、それじゃ7時半に学校来るよ。屋上でいいんだよな?」

 

 彼女と別れて教室へ戻る。そういえばジュースを買いに行ったんだよな?暑かったはずだが、

彼女と話してる間は暑いとも感じなかった。それだけ話に熱中できたのだろうか?彼女はそんなに

喋らないわけでもないが、雰囲気のせいで俺の方が話し掛ける方が多いような気がする。内輪

だったら結構喋るんだけど、あんまり合わない人にはほとんど話さないからな俺……どっちが

いいのかわからんが。

 さて、放課後まであと5時間、その後3時間か……冷房が中途半端に効いているこの教室で

どれだけ耐えられるのかね……


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