嬉しいが)。今日は思い切り羽を伸ばしてゲーセンだ。……いつもゲーセン行ってるのでは、
というツッコミは無しで。そりゃ俺だってテスト期間は遠慮するさ。
テスト終了日はテスト後に授業があるというのは痛いが、それも終わってしまえば忘れ去る。
チャリを飛ばしていつものゲーセンへ。今日は穴V攻略を目指すか、それとも
DP EXPERT未クリアのをつぶしていくか……いろいろと思案を練りながら音ゲコーナーへ。
そこには……久しぶりに見る美鳥が、いつも通りIIDXをやっていた。しかしいつもやっている
4thのHELL COURSEではなく、5thのNAOKI COURSEだった。4thが最後B4Uだったのに比べると、
INSERTiONはDPでも簡単なような気がする……そんなことより、それをやっている美鳥には
いつも見る元気がないように思えた。そういえば最後に見たのは……LUISさんがここに来た時、
それらしい人影を見たときだ。本人か確認するべきか?
90%残して終了。HELLばっかやってる美鳥なら当然か。俺はいつも通り彼女に声をかけた。
「よっ、久しぶり」
「あ……ひさしぶりっ」
普段どおりに見せようとしていたが、やはり違和感が見られる。絶対この前のことでなにか
後ろめたいことがあるのだろう。そのことをはっきりとさせてもらえなければ、これ以上一緒に
ビーマニを楽しむ友達でいられないような気分になってきた。
「なぁ、この前ここにLUISさんが来たときに」
「ルイスって、だれ?」
あくまでもとぼける美鳥だが、その言い方は「知ってるけど知らないふりをする」感じだった。
本当に知らないとしても、一応強い口調でさらにまくしあげてみる。
「お前LUISさんがPLAYしてるときに後ろの方で見てただろ、俺が声かけようとしたのになんで
逃げたんだよ」
「だから知らないって……」
「俺が見間違えるとでも思ったのか?その皮ジャン着てるの、お前しか……」
「もううるさいなぁ、ほっといてよ!」
とうとうボロが出た。やっぱりいたんじゃねぇか、何で隠すんだよ――と、さらに問い詰め
思ったのだが……叫んだ美鳥が涙目になってるのに気づいて我に返った。周りからはちらほら
視線が。これじゃまるで俺が彼女を泣かせたみたいじゃないか。いや、本当に泣かせてしまった
かも……美鳥は目を真っ赤にさせながら涙がこぼれるのを耐えているようにも見えた。
「……言い過ぎた、ゴメン」
たまに佑馬とも口論となって、泣き虫のあいつは泣きながら言い返すし、俺もたまにキレる
こともあるが、そこは長年の付き合いというか、次の日になればコロっと忘れてまたいつも通り。
だが彼女は佑馬と一緒ではないだろうから、この辺で引いておかないと今後ずっとギスギスな
関係になりそうで嫌だった。
「どうしても言えないんだったら、もう聞かない。誰だって秘密を護る権利はあるからな」
警察に逮捕されても黙秘権はあるからな。というか別に美鳥が悪いことをしたわけでもないのだが。
「……まだ……言いたくない」
感情をなんとか抑えようと、うつむいて拳を握り締めている。そこまで人に言えないことが
あったのだろうか。それは一体……駄目だ、また同じことを繰り返しちまう。他人に干渉するのは
ヤメにしよう。俺だって言いたくないのに言えって言われるのは嫌だし。例えば親父の仕事とか。
「さ、ビーマニしよう!今日は穴Vするぞっ!」
わざとらしく振舞って笑ってもらおうと試みたのだが、あまり表情は冴えなかった……
でも思い切って3曲目に穴DXY!やって、78%で落ちてしまったときは
「……自信過剰ねぇ」
と、イヤミを言えるようになっていたからちょっと安心した。そのあといつも通り彼女のHELLを
拝見。EASY付きで 94> 58> 66> 38> 0。もうHolicは最後の3小節を残す所……の前の一番濃い
所まで到達していた。ここを抜ければ……と思うが、EASYなしで下手すりゃ20%くらい減るから
EASYあっても16%くらいか。どちらにしろ20%は残したいところだな。
それからは美鳥はいつもの元気を取り戻していた。疑問は残ったままだが、二人でビーマニ
やっている間はそんなことはどうでも良かった。過去になにがあったろうと、俺は関与する
権利はない。それにしても、こう腕が上がっていくのを見ると、いつも新しくなっていくなぁ、
とは思っていたが、こんな娘でも落ち込むことはあるんだな、と思った。やっぱり美鳥も一人の
女の子なんだな……と。
結局6時過ぎまでいて、美鳥が先に帰ったのだが、俺はなんか帰る気にならなかった。
ビーマニがやり足らないとかそういうのじゃなく。他の人のPLAYを座ってぼーっと見ながら、
なんとなくビーマニやっててよかったような気分になった。