さらに思い出したのは宗谷からの「依頼」だ。まああいつに義理もないから言う必要ないん
だけどな……それを言ったら針井にも義理はないし。別に口止めを頼まれたわけでもないから
あいつは気にしてないんだろうけど、言ったらややこしくなりそうだし……
「タイトぉ?」
もう梅雨が明けたのか、空は快晴、つーか直射日光が痛いくらい。部室へ向かって運動場を
横切ってる途中で、後ろから声をかけられた。声からして宗谷だな。
「やっぱタイトね、あたいより先に来るなんて、よっぽどヤル気があるんだ」
「ま、どうせ他にやることなんて……ゲーセン行くしかないし」
「ヒマ人ねぇ……あたいもそうなんだけどさ」
部室まで2人並んで歩く。ここに針井がいたらありえない光景だろうな。
「それでもやるとなったら最後までちゃんとやったほうがいいと思ってんだけどさ」
「……あんた、B型でしょ」
「なんだよ急に……そうだけど」
「飽き性の割に、1度はまったらそれだけ凝り性になるのがB型でしょ」
「そうなのか?……そうかも(^^; でもこれはそんなにはまってるとは思えんが」
部室の前まで来た。宗谷がポケットから(実はスカートにもポケットがあったなんて最近知った
ことだったりする……)鍵を取り出して部室の鍵穴に差す。ちょっとだけ軋む音がして扉が開いた。
相変わらず暗い部屋だ……いつも通り宗谷が窓を開ける。今のところ針井の話を持ち出す気配は
なさそうだが……この女の頭ん中半分は針井で占められてるんじゃないか、っていうほど
ノロケてるからな。
結局聞かれないままに針井本人がやってきた。同時に目を輝かす宗谷。
「よっ、針井」
何気なく「この前会ったな」のニュアンスであいさつしたのだが、それを宗谷は見逃さなかった。
「……あんたがシャノンにあいさつするなんて珍しいわねぇ」
思わずギクリとしてしまう。針井があいさつしないのはわかっていたから、最近はこっちも
あいさつしてなかったのだが。ずずいっと宗谷が顔を近づける(でもなぜか目は横)。
「もしかしてあんた……」
「な、なんだよ……」
「そのケに目覚めたとか」
「なんでだ(--; 俺は健全な男の子だぞ」
「だってさ、シャノンの顔ってハーフだからか性別的にもハーフっぽいじゃない」
「シャレか……?そういう針井に惚れてるお前こそ、女のほうがふぅっ!?」
いらんことまで言って腹を思いっきり殴られてもんどりうつ……冗談のわからん女め。
「なにやってんだか……」
呆れて独り言のようにつぶやく針井。元はといえばお前が元凶なんだけど……針井が悪いわけ
でもないんだけどな。
「バカ言ってないで練習始めるよ」
「言い出したのはお前だろ……それに上久部長まだ来てないし」
「ああ、部長は今日進路面談で来れないから」
そうか、3年はそろそろ進路を決める時期だもんな、ということは俺もあと1年で進路を決め
なくちゃいけないのか。まあ順当に大学だろうが、その後で何をやりたいかで、入るべき大学も
違ってくるからな。一応漠然と、工学部って感じなんだけどどこにでもありそうだし……
宗谷や針井はどうなんだろう。というか別々の大学に進んだら宗谷は耐えられるのか、ってくらい
心配させられるほどだからなぁ。しかし針井が進学しないって可能性もあるよな、バンドの道を
目指すとか。親が反対するかもしれないけど、他人だが俺は夢があっていいと思うな。
ドラム無しの練習なぞ長続きするわけもなく、30分くらいで終了(あんまり関係ないが、前に
部長が「はんじかん」って言ってたの、「半時間」って書いて30分の意味だったんだな……)。
針井が物足りなさそうに帰っていった。その隣に宗谷が並ぶ……その前に。
「ところでシャノンの秘密、なんかわかった?」
ここでかい……もっと前に聞かれたら言ってたかもしれんが、まだ針井が見えるところじゃ
さすがに言う気は失せるぞ。
「別に……つーかやっぱこういうのやめた方が」
「あんた、ホントに調べててくれたんだ」
そうくるかい……しかし今更「やってませんでした」と言うとまた変なこじれができそうだし。
「宗谷があんだけ言うからだろ、別にいいのか?」
「やってくれてるなら、今後もお願いね♪」
こっちが言い返す前に、針井の隣へ走っていってしまった。俺が思うに、針井は宗谷には
興味ないように見えるぞ……俺だけでなく誰が見ても。