呼び出す


 たまたま佑馬のクラスと同じ時に終わったので、話しながら帰ろうということになったのだが、

下駄箱の俺の靴の中に何か入ってた。

「? なんだコリャ」

「どしたテツ……あっそれ、ラヴレター?(笑)」

 いきなり妙なことを言い出す佑馬。まさか……と思いつつそれを見てみる。それは封筒では

なかったが、確かに手紙だった。ルーズリーフを折り畳んだそれを広げてみる。

『お話があります。5時に体育館の裏に来てください。』

 細い字でその1行だけ書いてあった。

「マジでそれラヴレターじゃん!!」

「まだ決まってないだろ……つーか心なしか『ヴ』って下唇かんでんだろ」

「これでテツにもいよいよ春だな!」

 『も』って、お前まだ七希菜ちゃんに告白してねぇだろ……とツッコミたかったが、本当に

これがラブレターだったとしたら。なんだか俺も尋常ではいられなくなってきそうだ。

「じゃ、僕は邪魔者だから先に帰るね〜♪」

「おい、ちょっと待……」

 にこやかに手を振りながらさっさと走り去ってしまった。うーむ心細い……待ち合わせの時間

にはまだ30分くらいあるが……先に待つってのも性に合わないから、教室で待ってるか……

呼び出したほうが待つのが普通だよな?こういうときは落ち着いていないと。

「あれ?先に帰ったんじゃなかったの?」

 声をかけられてビクっとしてしまう。振り返ると、そんな俺に驚いたような表情の瞳由ちゃん。

こういう状況で女の子に声をかけられたら絶対ビックリするって……

「あ、いや……ちょっと忘れ物を」

「そう?じゃ、お先に〜」

 彼女も自分の靴を取って帰る。もしかして彼女がこの手紙を、とも期待してたが、そんなわけも

なく。彼女の筆跡とも違うしな。というか不自然な筆跡だが……しかも体育館裏って、ケンカの

呼び出しでもあるまいし――

 

「まんまとワナにひっかかったな、このナンパ野郎」

 ひっかかっちゃったよ……しかもあろうことか荒井田に……最近見てないから油断してた……

何が落ち込むかって、これからケンカっていうよりも、荒井田なんかにこんな古典的なので

ハメられたことだ……

「今日こそ決着をつけるぞ!俺が勝ったら、二度とあいこちゃんには近寄るな!!」

「一応聞くけど……もし俺が勝ったら?」

 ケンカってのは、小学生のときにやったかやらなかったかで最近なぞやるわけもなく、

ましてや俺よりもでかい相手をKOさせるなんてイメージも湧いてこなかったが、俺がやられる

というイメージもなかった。結局どうなるかわかんないってことなんだけど。一応腕相撲では

佑馬には負けたことないのだが。

「まぁ、万が一、いや億に一つでも俺が負けたら、潔くあいこちゃんから手を引いてやろう」

 いちいち言い直すなよ……というか俺が彼女に気があるみたいじゃないか。まあ悪くは

ないけど……って、これじゃ本当にナンパ野郎だ(汗)

「なぁ、どうしてもやるのか?」

「なんだ、いまさら命乞いか?」

 どっかで聞いたような……じゃなくて、ここで土下座でもしてあやまりゃケンカは回避できる

かもしれないが、俺が悪くないのにそんなことできるか。ここは腹をくくってやるしかないか……

「先生、こっち!友達が上級生にからまれてんの!!」

 突然近くで生徒の叫び声が。「先生」の言葉で荒井田の表情がゆがむ。

「ちっ、誰か知らんが邪魔しやがって……」

 そう言いながらも向こうへ走り去る荒井田。今度もめごとがあったら停学の可能性があると

自分でもわかってたのか……しかし今の声、もしかして。

三郎 & 佑馬

「テツ、無事か?!」

「やっぱ佑馬か。つーか帰ったんじゃなかったのか?」

「あ、いや……テツにラヴレターを送った女の子がどんな娘か気になって……」

 のぞきに来たってわけか。まあそのおかげで助かったわけだが……

「って、先生は?」

「ああ、ウソ♪」

 こいつ……なかなか侮れん……嘘も方便とは言うが、役者とか向いてそうな演技だったぞ。

演技といえば、当の山藤が止めに入れば、もっともらしいのだが……余計にこじれそうだな、

しかもこれでケンカが回避されたのでもなく。

「しかしテツが男にモテるとは……」

 思わずコケそうになる。いきなり何を言い出すんだ佑馬は。

「どこをどう見たらそーなるんだよ」

「いや、テツが断わったから力づくでも……とか」

 何を力づくなんだ……?つーかそっちの方がケンカより恐いぞ……


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