携帯電話など授業に関係ないものを持ってきてもほとんど没収されない。個人のプライバシーを
守るから持ち物検査などない。まあ私立でなくてもそんなことしたら問題とは思うけどな。
というわけで休み時間には漫画雑誌を読む男子が多い。俺は毎週たった200円くらいでも、ほとんど
読まない漫画まで好きになろうとは思わないので週刊誌は買わない。すぐにかさばるし。
誰かが読んでるのを後ろからのぞくくらいだ。
ちなみに親父の漫画は月刊の雑誌に掲載されている。親父曰く同時に複数の作品を進めるのは
質が落ちるとかで、1つの作品を長々と続けてるらしい。それで長寿連載として人気があるとか。
まあその雑誌は今月は10日くらい前に出たから今日はそれは見かけない。というか10日前は
テスト中だったし。それでも漫画を持ってくる強者もいるが。
男子は雑誌だが、女子は単行本が多い。学校で見るのは少女漫画ではなく、男子が持ってくる
雑誌も漫画をコミックスにしたものだ。結局女子も少年漫画が好きなようだが、1つの漫画、
あるいは作家のだけを好んで読むようだ。そんで美男子キャラのらくがきが上手いのな。似てる
似てないはともかく(というか描き分けできてないんじゃない?)。
今休み時間だが、まさにそういった情景が教室の中で見られる。漫画をあまり読まない
俺からすればこっけいだとは思うのだが。目のやり場に困ってとりあえず視線を動かした瞬間、
俺は何か見てはいけないものを見てしまったような気がして思わず目が止まった。
瞳由ちゃんが漫画の単行本を読んでいる。それはまだ許せるのだが、その単行本が……
親父の漫画だったということだった。よりによって彼女が……
「……ん、なぁに?」
俺の視線に気づいてか、ページをめくる手を止める彼女。一瞬視線をそらそうと思ったが
もう遅い。あまり気は進まないが話題を合わせることにした。
「その漫画……好きなんだ」
彼女が読んでるのは、言わずもがな親父の作品で人気漫画の「Super-Ability」18巻だ。
表紙にはその巻に登場するキャラ・ブレードが描かれている……って詳しく言いたくないのだが。
「うん、1巻から全部そろえてるよテツ君は?」
全部か……まあそりゃそろえるだろうな……俺の家(マンションじゃなくて本当の家)には
当然ながら全巻あるわけだが、別に読みたくてあるのでもないのだが。
「ま、まぁね、流行ってるし」
とりあえず彼女に合わせることにした。まさか彼女が「オタク」ではないと思っていたので、
その辺で話は終わると思っていたのだが……
「やっぱり♪この漫画面白いよね〜」
いきなりこの親父の漫画について熱く語りだした瞳由ちゃん……というかもはや誰とは思い
たくもなかったのかも。重箱の隅をつついたような知識を披露する彼女も見たくないのだが、
何より悲しいのはその内容さえも知ってて、知らないふりをする俺の姿だった。
「でね、8巻で転移魔法を使えるようなエルフの剣士が、12巻で回復魔法が使えないって
いうのは、ちょっとおかしいような気がするんだけどね」
「……あー、確かに……」
「……あ、ゴメン、聞き飽きた?」
相づちを打つのも疲れてきて、本当に「聞き飽きて」いるのがバレてしまった。というか
気づいてもほしかったのでこれでいいのかも知れんが。
「それほどこの漫画が好きだなんて、作者も嬉しいだろうね」
彼女の質問を肯定するのを回避するために適当なことを言ったが、確かに親父は読者を大事に
するほうだよな、ファンレターもできるだけ全部読んで全部自分で返事を書いてるし(あてな
書きは手伝わされたが)。ただストーリーに関しては譲らなかったみたいだな、それは漫画家が
決めることだって。いきなり武術大会が始まったりはさせないとか。何の漫画雑誌だか……
「テツ君は漫画読んでるのあんまり見かけないけど、もしかして好きじゃないの?」
「ん〜、最近ツボにはまった漫画にめぐり合ってないからなぁ」
『それよかビーマニにはまりこんでるし。』という言葉が口から出そうになってとどめる。
これについて語りだすとさっきまでの彼女見たく止まらなくなるからな。そりゃ親父の漫画は
面白いことは認めるが、それが「自分の親」が描いてる漫画でなかったなら、彼女のように
ハマっていたのかもしれない。親なのに子供が読むような漫画を描いてるだなんて、俺の親は
親らしいしつけをしているのか、と疑ってしまう。俺の場合は「反面教師」と思い込んで
なんとかここまできたんだけどな。
授業開始のチャイムが鳴って、先生が来るとみんな漫画をしまう。授業中に机の下で漫画を
開く生徒はほとんどいない。自由な分、自己管理もしっかりするということだろうか。