ようやく


「テツ〜、おはよ〜」

 いつもの朝、しかし授業は今日はない。終業式だ。だからといって休めるわけではなく、

ちゃんと補習があるのが痛い。クラブ推進校とか言っておきながら、やっぱり進学の方でも

ポイントとっておきたいんだな、まあ当然か。

 いつもの交差点、学年別で補習の時間は違うようだから、こうやって待つ人数は減るだろう。

まあ人ごみがあまり好きでない俺には好都合かもな、ただでさえ暑いし。

 いつもの呼び声。この佑馬のあいさつだけは変わらないな、と思っていた。いつも一緒に来る

七希菜ちゃんも。だが――

「おはよう、タイト君」

 一箇所だけいつもと違って見えた。それは……二人が手を繋いでいることだった。実際は

佑馬が走りながら七希菜ちゃんの手をひっぱっているようなのだが。今まで二人でいるのを

何回も見ているが、よく考えてみれば手を繋いだ所は一度も見てなかった。それが目の前に……

俺にはなんとなくわかった。そうか、やっと――

七希菜 & 佑馬

 

「この幸せもの!」

 笑いながら頭を叩いたのはいつもの食堂で。ここも夏休みは閉まるらしい。安いし栄養も取れる

んで開いてて欲しいんだけどな。終業式の後、しばらく食べられないであろう「日替わり定食」を

佑馬と二人で食べることに。

「イテっ!……へへへ」

 頭をかばいつつもにやけ顔の佑馬。コイツが一番嬉しいだろうに、なぜか俺もうかれている。

一番の友人が幸せになるのは、やはり共通の喜びだ。

「で、なんて言ったんだよ、七希菜ちゃんへの告白」

「え〜、そりゃ恥ずかしくて言えないよ〜(*^^*)」

 ま、佑馬のことだから洒落た言葉も考えず、ストレートに「恋人として付き合ってくれ」か?

でもその方が七希菜ちゃんにはジンとくるかもな。お互い純粋だから、今後も仲良くしていける

だろう……なんかこう言うと俺は純粋という類じゃないように思えてしまうが……どちらかと

いえばいろいろと考えてしまう方だからなぁ……

「じゃあさ、デートとか決めてんの?どこ行くとかさ」

「え、いやまだだけど……」

「付き合ったらまずデートだろ、映画館なり喫茶店なり」

 かくいう俺もデートなぞしたことがないので、ドラマや漫画でやってるような典型的な例を

挙げるにとどまったのだが。七希菜ちゃんは良くも悪くも「普通の娘」だから、そのくらいが

その辺が妥当だと思うんだけど。

「じゃあ……遊園地、かな?」

「まあまあだな、お前らしいけど。あ、お化け屋敷は止めておいたほうがいいな、彼女お化けは

 平気でも血のりは駄目だろ」

 キャーとかいって抱きついてくるというシチュエーションは彼女には無理。その前に倒れるし。

「あ、そうだったね」

 この前もそうだが、佑馬は七希菜ちゃんに気を使っているように見えて、この「血が恐い」と

いうことはよく忘れてしまうから、佑馬の血を見て彼女が気絶、というのをよく見かけた。まさか

それを狙っての……ってのは深読みだろうが、

「いずれにせよ今まで以上に彼女を護る義務があるわけだ。」

「……それはそうだけど、いきなり『いずれにせよ』って……?」

 しかし、3人でよく遊びに行ったこともあるが、これからは俺だけのけ者にされるような気が

して少し寂しい……別に佑馬に嫉妬しているわけでもないが、子供っぽい佑馬に先を越されたのは

やっぱちょっとは腑に落ちないと思っているが……

「まあそれはおいといて、ところで通信簿、どうだったんだよ、俺は5が2つで4が4つ」

 5は数学と化学だ。化学は瞳由ちゃんのおかげだな。

「えと、5が1、2、3か……4は……3つくらいだっけ?」

 きっと国語とReading、Writingの両英語が別々にカウントされてるからだろう。

「でも、七希菜は体育以外5だって!やっぱすごいよなー」

 へぇ、さすが……体育はしかたないか、それまでできりゃ別世界の人間みたいだし(言いすぎ)。

それにしても、前々からウワサされてたとはいえ、学年で人気者の七希菜ちゃんと付き合う

気持ちって、もし佑馬でなかったらどうなんだろうな。皆に自慢したいってのがでてくるかも

しれない。それがない佑馬だから、俺はこいつを応援できたのだろう。彼女は本当は佑馬には

もったいないくらいの出来すぎた娘と思ってるからな。


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