計画


「合宿?」

 補習中でも部活はある。補習がなくても部活をやっているところはある。そこまで毎日のように

するとは、よほど好きでないとできないだろうな。俺はといえばまあ義理っぽいので続けてる

わけだが。そのバンドクラブだが、この夏休みに合宿すると宗谷が言い出した。

「そ、毎年恒例なんだけど。アンタも参加するのよ」

「ふーん、ま、どうせヒマだしいいけど」

「…………」

 針井は無言だが、去年も行ったんだろうから今年も行くんだろう。しかし……

「4人でか?つーか部長は」

「ああ、上久部長に聞いたんだけど、受験勉強が忙しくて今年はパスだってさ」

 そうか、ああ見えて(失礼)マジメに勉強する人だからな、俺も見習わなければ。……って、

それじゃあ3人?

「今年も、私のおじいちゃんの寺でいいね」

「寺?宗谷のじいさんって坊さんなのか?」

「坊さんて……住職って言いなさいよ」

 仏教のことはよくわからんが……俺の家にも仏壇があるから仏教なのだろうが、そのなかでも

いろんな宗派があるしな。俺の家はどうか知らんけど。まあキリスト教とかで毎週日曜に教会へ、

なんて面倒なこともしたくないし。待てよ、針井はキリスト教だったりして?でもアイルランド

ってどうだったっけな、つーか父親の方の宗教か?……

「……何考えてんだ?」

 不意に針井に声をかけられビクッとする。自分のことを考えられてるとき反応するとは、やっぱ

こいつ読心能力とか……まさかな。

「別に……で宗谷、いつ行くんだ?」

「これからお盆まで忙しいらしいから……来月の今くらいになるね」

「そりゃ夏休みほとんど終わってんじゃん……」

「でもそのくらいがいいでしょ、やっと涼しくなる時期だから」

 そりゃ寺にクーラーなんぞないだろうしな……扇風機もないなら行きたくないぞ……まあ元々

ないのが普通の時代の人には、俺たち現代人がクーラー使いまくるのは贅沢だと思っている

だろうけど……時代のせいだと思ってくれ(何が)。

 

 その日の練習後。針井が帰ったのだが、珍しく宗谷はついて行かなかった。

「今週のシャノンは?」

「ああ、それを聞くために……別に、いつも通り……」

「いつも通り、なによ」

「いや、南の通りで弾き語りしてるのって……知ってるだろ?」

「……初めて聞いた」

「え?そうなんだ」

 ちょっと言わない方がよかったかも、と思ったが、まだここまでならどうってことないだろう。

ウソをついてるわけでもないし。それで今度見に行ってみよう、とか言って瑠璃絵さんと遭遇でも

したら厄介なんだけどな。

「じゃあ今度見に行ってみようかな♪」

「…………ホント針井一筋だな」

「実は、シャノンのこと知ったのもおじいちゃんの寺でね」

 俺はてっきり、中学以前から知っててのベタぶりだと思っていたのだが、それは佑馬とダブって

見えたせいか。ともかくそんなことを聞いたのは初めてだ。

「あたいが1年のときはまだバンドクラブには入ってなかったんだけど、お盆でおじいちゃんの

 所へ行ってたときに、今の部長の親戚がおじいちゃんの友達とかで、合宿をそこに決めたんだって。

そこで丁度シャノンに会ったのよ」

 学校同じでも、ハーフで髪の毛の色緑でも知らんかったりするんだな、まあ俺だって人のこと

言えんが。宗谷は話を続ける。

「初めはなんか近寄りがたい雰囲気があったんだけど、他の部員が遊んでる時にも1人だけ

 ギター弾いててね、妙に寂しい感じの曲と姿があって、思わず涙しちゃったんだ」

 宗谷が泣くって……それほど針井のギターはすごいってことか。今まで人がいるところでしか

聴いてなかったから、寺とか静かなところで聴いたら、俺も宗谷の気持ちがわかるかもしれない。

巫琴 & 社音

「同じ高校の同じ学年だと知ってね、あたいもギターかじったことあるから、バンドクラブに

 入ったんだ。またあの演奏を聴きたい、それと、寂しそうなシャノンの笑顔も見てみたい、って」

 笑顔か、あんま似合いそうにないが(ぉ 宗谷はただ見た目だけで針井にベッタリしてるの

かと思っていたが、そうでないことを知りちょっとホッとした。こんなおてんば娘でも心を

動かせる曲を弾けるとは、やはりすごいことだ。俺が弾けるのは、降ってくるオブジェに合わせて

くらい……たまには譜面どおりではなく、自分のアレンジが入った演奏もしてみたいが、本物の

楽器ではあいにく技術がない。だからこそ練習が必要だ。今日宗谷の話を聞いて、改めてこの

バンドクラブで頑張ってみようと決心した。……俺も単純だな。


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