クーラー病だ……やっぱ家に帰ったほうが快適だったかも知れん。家の方が空調設備が整ってる
からな……庶民レベルの贅沢って程度なのだが。
で、昼間の間ぐでーっとして夜眠れないダメダメ生活になってしまったので、夕食の用意など
しているはずもなく。でも腹は減るもので――仕方ねぇ、コンビニだな。そういえばまだこの時間
なら、瞳由ちゃんが働いてるだろう。知り合いだからちょっとくらいまけて……くれんよな、
バイトだし。
「いらっしゃいませー……ってテツ君」
どこのコンビニでも入ってきたお客には元気なあいさつをするように教えられるのだろうが
(たまに変なアクセントのあいさつがあったり、全くの無視するのもいるが)、彼女のあいさつは
気持ちのいいものだった。
「やあ、ちょっと晩飯を」
「駄目よ〜、ちゃんと栄養のあるもの食べなきゃ」
「ってコンビニ店員がそんなこと言っていいのかよ」
「栄養を考えた食品も取り揃えてありますよ」
そう言ったのは瞳由ちゃんではなく、今奥から出てきたもう一人の店員だった。長い髪の毛を
オレンジに染めている女性……って、
「瑠璃絵さん……?!」
思わず驚いて指までさして失礼だが、もっと驚いたのは彼女の方だろうが。
「え、どうして名前を……」
「あ……そう、針井、弾き語りやってる針井の友達でさ」
「……ああ、社音くんの?」
厳密には「友達」とは言わないのだろうが……細かいことは置いといて、とりあえず他に客が
並んでないので、会話を進められる。
「バンドクラブに入ってんだー、それであんなに上手なのね」
「あれは元々だと思うけど……そういう瑠璃絵さんだって歌うまいじゃん」
「え、聞いてたの?」
「この前針井の近くにいたんだけど……気づいてなかったのか」
「へぇ〜、そういえば住村さんよく鼻歌歌ってるよね(^^)」
「ふふ、デビューするためにバイトしてるからね」
そっか、それでここで働いてるんだ。目標のために自分で金を稼ぐなんて、立派だなぁ。それに
比べて俺は……親の仕事は隠しながらも結局スネかじってるもんな(汗)
「学園祭でさ、俺らバンドクラブで曲演奏しようと思ってんだけどさ、そのボーカル、歌は
そこそこだけどやっぱ瑠璃絵さんほどじゃないなぁ」
ここに宗谷がいたらブン殴られそうだが、本当のことだから仕方がない。まあ瑠璃絵さんと
比べられた宗谷も可哀相なほど、彼女の歌は飛びぬけている、と俺は思うのだが。
「ねぇ、学園祭で歌ってもらうっていうのはどうかな」
ふいに瞳由ちゃんが提案。確かに俺も一度は考えたことだが……
「えっ……でも、そのボーカルの人はちゃんといるんでしょ?だったらその人に悪いわ……」
しかし彼女も歌いたくないわけでもなさそうだし、第一に俺が歌ってもらいたいし。
「いや、俺も瞳由ちゃんに賛成だな。そいつには針井と二人で説得してみるよ」
針井なら瑠璃絵さんが一緒に参加するのも認めそうだし、宗谷もなんとか落ち着かせそうだし。
……しかし宗谷と瑠璃絵さんの仲が悪くなりそうな気がしたが……そんな考えはすぐに霧散した。
というか別の不安材料が浮かんできたからだ。
「あ、でもバンドと合わす時間が必要だよな、瑠璃絵さん忙しいなら無理にとは言えないけど……」
「それは大丈夫、バイト以外の時間ならね」
「やっぱり他にもバイトしてるんですねぇ」
「すみません……」
いきなり割り込んできたのは……客だった。慌てて対応する二人。
「あっ、ごめんなさい、いらっしゃいませっ」
大変だなぁ、こういうバイトいくつもしてるなんて……邪魔にならないようにさっさと買って
退散するか。さっきの忠告を思い出し、ボリューム・栄養満点っぽい弁当と、それを買えば割引に
なるお茶を買うことにした。
「じゃあ、決まったらここに伝えに来るよ」
「嬉しいけど、本当に大丈夫?」
「へーきへーき」
俺の中での優先順位は「瑠璃絵さん>宗谷」に決まった(なんの優先だ)。