着信あり


 いつものように……どちらかといえばいつもよりもやる気なくその日を過ごしている。

今日も家から出ずクーラー聞きっぱなしで、高校野球も音量下げて半ば寝てる状態。

完全に運動不足だよな……だからって暑い中どこも行きたくなく。せめてビーマニの新作でも

でりゃ暑くても平気なのだが……それでもこの前のことがあるから気力萎え気味……

 急に携帯電話が鳴った。流れてきたメロディはJIVE……別に機能性は興味ないから今となっては

古い機種で、和音も3つだが……そんなことは置いといて、眠りにつこうかというときに

起こされて、半分苛立ちながら携帯を手に取った。

「INDIGO……?」

 電話帳に登録されていれば、自分がそう名前を付けたならそう出る。でも普通は本名を入れて

いるはずなので、INDIGOなんて名前……いや、思い出した。

「もしもし?」

『テッツ〜!久しぶりねぇ』

 山藤藍子だった。芸能人の電話番号が携帯に入ってると知られるのはマズいと思ったので、

藍子の藍(INDIGO)と入れてたんだっけ。一応教えてもらってから電話もらってないので

忘れていたのだが。

藍子

「何か様か?……そういや今映画のロケじゃ」

 言いかけて仕事のことは言わない方が……とよぎったが、ここは学校じゃないので別にいいか。

『うん、今ちょうど休憩中』

「で、なんなんだよ」

『別にぃ、ヒマだったから話し相手を、と思って』

「あのな……こっちは急がし――くはないけど」

 何か理由をつけても良かったが、別に断わる理由もない。でも寝起き同然に彼女のテンション

高めな声は携帯通してでもかなり頭に響く……

『なんか元気なさそうねぇ、夏バテ?』

「……ま、そんなところかな」

『ひょっとして、女の子にフラれたとか』

 ズバリついてきたので嫌な汗が出てきたではないか。正確に言えば振るとかまでいく話じゃ

ないんだけど……

『元気だしなさいよぉ、出会いは星の数ほどあるんだからね』

「だから違うって……それに星の数ほどあったら、どれが一番いいのかわからんだろ」

『あら、ピッタリじゃない』

 ふと思いついたことを付け加えて返すと、山藤は妙な言葉を発す。 「……何が?」

『今の会話がね、ロケしてる映画で、私と相手役の男の子との台詞まわしと丁度同じだったのよ』

 つまり、山藤の「出会いは星の〜」に対して俺の「どれが一番〜」ってことか。台本書いた

ヤツも知れてるな……

「あっそ……で、その続きは?」

 ふと口に出たが、後は映画を見てのお楽しみ、とか言われればそこまでなのだが。

『「この隕石との出会いも、運命の巡り合わせよね」ね、台本では』

 確か隕石が高校に、って話らしいが、どうやらその隕石を彼女が手にしてるというシーンが

思い起こされる。

「ふーん……台本ではって?」

『私なりにね、アドリブで一言入れてみようかなって思ってるんだ』

 アドリブって、相手もやんなきゃならなくなるのが多いからやらない方がいいんじゃ……

カットの最後に入れるんだったらともかく。

「……なんて?」

『「私との出会いも……」』

 ……耳元でささやかれてドキっとしたのは、口調がさっきまでとは全然違うかったからだ。

なんでそこだけ芝居が入るんだよ……そりゃ売れるな、とも思わされたが。

『ってどうかな?』

「……いいんじゃないか……?」

『そう?じゃ使ってみようかな』

 その後延々とロケでの笑い話など……彼女の方が8割方喋っていた。

 

『あっ、そろそろ時間』

「やっと終わったか……30分くらい喋ってなかったか?」

『気にしない気にしない……そうだ、この映画完成したら試写会来ない?』

 試写会ねぇ……映画は見てみてもいいけど、試写会となるとマスコミとかいっぱい来そうで、

山藤のことだから俺と親しげに隣で観たりして、それがスクープとかされたら……考えすぎか。

「ま、考えとくよ……」

『うん、それじゃまたね★』

 やっと切れたか……いつのまにか眠気もどっかに行ってしまったが。しかしあんだけ喋った後は

台詞とかに支障をきたすんじゃないのか?あの調子じゃ平気そうだけど(苦笑)。

 ああいう性格はいいよな、辛いこともすぐ忘れそうで。どんな悲しい物語の登場人物を演じて

いても、それが終われば笑顔になれるとか……それも嫌だが。でも逆に、現実に悲しいことが

あっても演技で笑わなきゃならないこともある。それも覚悟で彼女は芸能の道を選んだんだろう。

やっぱ彼女は強い娘だな……


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