初合わせ


 だったったったっ……

「……なんでっ」

 だったったったっ……

「……俺がっ」

「ほら、そこ愚痴らない!」

巫琴 & 瑠璃絵

 はたきで俺を指して怒鳴る宗谷。大分夏は過ぎて、山だから平地よりは涼しいとはいえ、やはり

残暑。そんな中、なんで俺が宗谷のじいさんの寺の掃除をさせられなきゃなんないんだよ……

まあぞうきんがけだから水に触れられるだけマシだが。

 今年もこの寺ってのは、やっぱ掃除させるためだったんだろうな……しかも瑠璃絵さんにまで

ほうき持たせて……嫌がってるようには見えなかったけど、好きってわけでもないだろうに。

宗谷が彼女の参加を認めたのは、人手が増えるからっつーのもあるんじゃねえのか?

針井は、住職である宗谷のじいさんにつきあって蔵の整理を手伝っている。文句をいわないのは

意外だが、去年もそうだったのだろうか。

「すみませんねぇ、よく汚れていて手間かかるでしょう」

 いつのまにか、その住職さんが蔵から出てきた。針井はまだ中にいるようだが。

「いえ、泊めてもらうんだからこのくらい当然ですよ」

 住職の優しそうな顔を見ると、ついついへりくだって答えてしまう。そりゃあの宗谷も

かわいこぶるのも無理はないが……針井並にな。

「おじいちゃーん、裏のほうもやっとこうか〜?」

 ……ほらな……って、裏って草ぼうぼうだったけど、まさか全部抜かされるんじゃない

だろうな……?

「すまないね、でも今日はこの辺にしましょう」

 ああ、そう言ってくれるとホント仏って感じだなぁ……でもまだ夕暮れには時間あるけど

いいのか?まあ明日も朝から、ってことなんだろうけど……先にそう言っていたのか、針井も

丁度蔵から出てきた。

 

 夕飯はやはり精進料理だったが、それはそれで美味しいものだった。ああいうのを毎日三食

食べてるのだから、栄養のバランスもよいのだろう。まあ今日は俺たちのために量と種類は

多いものにしてくれたのだが、驚くべきは大半を宗谷が料理したことだった。

「ナニ?あたいが料理できるのがそんなにおかしい?」

 今にも手が飛んで来そうだが、祖父の前ではしないだろう。キツイ視線が来るだけである。

「すみません、私が料理がもう少し上手だったら、お手伝いできたのに……」

 客なのに献身的な瑠璃絵さん。これも謙遜かと思ったが、親から友達から、ほとんどに

料理が下手と言われてるらしい。そういう人ホントにいたのか……まあ自覚してるだけマシか?

でも彼女が、ってのは意外パート2だな。そして針井は相変わらず無言の食事ってのは、

いつも通りだ。

 食事の後は――することが無い……のは俺だけ。というのも、針井はギターを持ってきているが

俺担当のキーボードなんてかさばって持ってきてない、というか持ってきてもコンセントが

見当たらん……そして女性2人は自身が楽器だし。結局俺は、部長があらかじめ採ったドラム

パートのテープをラジカセ(電源は電池)を流す役割となる。

「じゃあフェリルがメインボーカルで、あたいがラップね」

 まだ納得がいってないらしい声の宗谷。瑠璃絵さんは軽く返事しただけで、集中しているように

見えた。俺が合図を送ってテープを流す――部長のドラム、針井のギター(本当はベース)と続き、

宗谷のラップ。やっぱこっちの方が合ってんじゃん、普段から喋るのも早いし(笑)。そして

瑠璃絵さん、音域が高くて広い彼女の声を聞いてから、この曲にピッタリだとは思っていたが……

はまりすぎ。あたりは電灯も無く真っ暗で、満月がよく見えるというのも曲に合いすぎ。後半は

宗谷が低音でハモるという芸当を見せて対抗したみたいだが、聞きなれた曲でも斬新に思えて

よかった。しかし最後の無音部分での瑠璃絵さんの歌声は、野外で残響もない分リアルに聞こえて

鳥肌が立った。そして2分弱の曲が終わる……

「……完璧じゃん」

 第一声はそれだった。オリジナルに引けを取らない(さすがに超えたとは言えないが)演奏と

歌だったと思うのだが。

「まーね、でもアンタ何もしてないじゃない」

 当然顔の宗谷は言うが、俺のキーボードなんか入ったら逆に邪魔になりそうな感じがして、

やはりキャリアの差?というべきだろうか。針井も……いつも通りのしたり顔だ。

「そんなに良かった?でも宗谷さん……ソフィア?さんのハモりも上手だったよね」

 やはり謙遜して宗谷をおだてる(多分本心だろうが)瑠璃絵さん。その宗谷は照れてるのかすでに

そっぽを向いていた。思ったよりも早くできそうだな……ってあと俺だけだが。

 

 蚊帳などないので座敷の方で寝かせてもらったのだが、その分暑い……横の針井もさすがに

寝苦しそうだな。女性2人はちょっと離れた部屋で寝ているので話し声など聞こえないが、

あの2人の会話が成り立つとは思いにくい……その分何も考えられず寝られそうだな、暑いけど。


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