入学式


「オイ、テツ!!」

 次の日、いつもの交差点。いつものように佑馬が声をかけてきたが、いつもと感じが違う。

振り返ると、ちょっと急いで佑馬が近づいてきた。後ろの七希菜ちゃんも小走りでついてくる。

「なんだよ朝から」

 そう言い終わると同時に、佑馬が目の前までやってきた。そこで気がついて、七希菜ちゃんを

待つ。あまり走るのが得意じゃない彼女はちょっと息が荒かったが、すこしだけ待ってから

佑馬は話を切り出した。

「新入生の話、知ってるか?」

 今日は入学式、当然新入生は初登校だ。確か式の時間の関係でもう少し遅くして登校して

くるだろうが。だがそういう話ではなさそうだ。

「さあ……なんだ?」

 訊ねてみると、ニヤリとする佑馬。話したくて仕方ないんだろうな。

「今年の新入生に、あの『やまふじあいこ』がいるんだってさ!」

「やまふじ……」

 といえば、ドラマの子役で有名だ。もう子役って年でもないけどな。たまに本屋で

芸能雑誌の表紙とかで見たような気もするが……

佑馬 & 七希菜

「へぇ……」

「……『へぇ』って、お前……」

 気のない相づちに不満そうな佑馬。

「もちっと驚けよ」

「つーかホントかソレ?うちの高校に入ってくるんなら、マスコミとかが既にそう言いまくって

るんじゃねぇの?」

「どうやら『お忍び』らしいですよ」

 俺の疑問に七希菜ちゃんが答えた。彼女も知ってるのか。あまり詳しそうには見えない娘だが。

「高校生活では普通の女の子に戻りたいんでしょうね」

「まあ既に感づかれたりして」

「で、なんで知ってんの?」

 また俺が訊ねてみると、また佑馬がニヤリ。……気持ち悪いな。

「ほら七希菜、こいつやっぱり周りの話に興味ないだろ?」

 なんか小馬鹿にしたような言葉に、七希菜ちゃんは苦笑する。……だからなんだよ(--メ

「学校中ウワサになってるんだぞ、放課後その話題でもちきりだったのに……どうせ学校終わって

すぐにゲーセンでも行ったんだろ」

 行動パターンをバチリと読まれて反論できず……まあ長い付き合いだしな。信号が青になった。

3人は歩き出す。

「にしても、興味なさそうだよな」

 佑馬がつまらなそうに言った。知らないことは読んでても、もっと驚くと思ってたのか。

俺はそんなミーハーじゃねぇぞ。

「あんまりうるさく言わない方がいいんじゃねぇのか?その娘もそのために秘密にしてんだろ?」

「そりゃそうだろうけど……じゃなくて、テツ自身がどうかって聞いてんだよ」

 ……チッ、ばれたか。どうせ俺は芸能界に疎いよ、彼女がどんなにすごいかもな……

言葉をはぐらかしながら校門へたどり着く。『平成13年度入学式』のたて看板が。それよりも

校門前に人だかりがあるなと思ったら、カメラやマイクを持った大人たちが……ありゃマスコミ

じゃねぇか。やっぱバレてんでやんの。しかも生徒にコメント求めてるし。

「オイ、カメラが来てるぞ、僕たちニュースに出てたりして」

「ハズいぞ」

「私もそれはちょっと……」

 俺の親父もマスコミ嫌い……は言い過ぎか? 親父は漫画家で、しかもかなりヒットしてたり。

それで雑誌とかにインタビューを書かれたりしてたが、写真とかは一切お断りだな。おかげで

佑馬たちさえも親父があの漫画の作者だってこと知らないし。だから彼女……やまふじあいこ?の

気持ちもわかったりするかも。

 早足でレポーターから逃げる。別に俺たちにインタビューする気配もなかったが。どうせ

訊ねられても俺のコメントはカットされるだろうな(苦笑)

 入学式には在校生は参加しない。生徒会委員は式に出るみたいだが。ちなみに対面式もないので

その間、俺たちは授業だ。どっちが楽かは知らないけどな。式でのいすは、勉強机のいすより

居心地が悪かったりするんでな。

「じゃあ本当なんだね」

 瞳由ちゃんも知ってたらしい。まああのマスコミ見りゃな。まさか瞳由ちゃんはミーハーじゃ

ねぇだろうな……

「一度は会ってみたいね」

「あ、ああ……」

 『一度』ってビミョ〜……まあ集団になってるとこにいるんだろ、いつでも会える機会が

あるんなら親近感、とまではいかなくても女優だから高嶺の花、ってことはなくなるだろうな、

ここの生徒には。つーか俺は元々高嶺とか考えてねぇけど。

 授業中、ぼーっと窓の外を見てみる。今ごろ体育館では入学式が始まってるんだろうな。


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