大弱点


 学園祭、俺たちのクラスはやはりお化け屋敷をやる模様。すでに役柄もいくつか決まっている。

俺はコース作りなど大道具ということで落ち着いた。男が力仕事したほうがいいからな……って

まあ驚かせ役が面倒なわけで。驚いてくれずに引かれたらそれこそ辛いぞ……

 クラスごとの他に、クラブでもすでに計画が実行されているようだ。アート、料理、将棋、天文

……クラブ数が多いだけにいろんなところで細やかな作業が見られる。2つ掛け持ちの生徒は

お互いの仕事が忙しくて走り回っている。これでもまだ序の口で、学園祭1週間前となると

そりゃあもう上を下への大騒ぎとなる。一方、バンドクラブといえば……

「……あ(汗)」

「ハイやり直し。不器用ねぇ」

 俺のキーボードの特訓だった。譜面自体は簡単なのだが(片手だけで弾けるくらい。つーか両手は

無理)、隣の鍵盤を押してしまって不協和な音を出してしまう。そして宗谷からダメ出し。

ゲームのように、ちょっとはミスってもある程度できれば、じゃなく、完璧にこなさねばならない

というのは、集中力の続かない俺にとっては難問だ。他のメンバーはその完璧だというのに。

「今さらだけど、アンタ楽器の演奏似合わないんじゃないの?」

「ホント今さらだな……でもそれこそ今さらやめられるか」

 俺が演奏するのはこの1曲だけで、あとは「ベテラン勢」が数曲演奏。部長や針井は今それらの

曲の練習をしているが、聞く限りではそれ以上直すところは見つからないほどの名演奏だ。

「ほらヨソ見しないで、もっかい最初から!」

 で、俺の練習に付き合ってくれているのは今ヒマな宗谷。その宗谷も、歌詞をほとんど忘れずに

歌えている。これは足手まといにならないよう必至になるしか……

「……あ、宗谷、髪の毛……」

 今宗谷はあの水色のカツラはしていなく黒髪だが、その中に1本混じって水色の毛が見えた。

カツラから抜けたものだろう。

「何?」

「ちょっとじっとしてろって」

 気になったので、俺が取ってやろうとした。なぜか蚊を叩こうとするがごとく、手はゆっくりと

動き、視線は宗谷の前髪に集中する。が、

「……ちょっと……」

「だから動くなよ、今髪の毛に」

「何でそんなに見つめんのよ……」

「……あ?」

 違和感のある言葉を聞いて視線を宗谷の前髪から顔に移すと、俺も動けなくなった。目の前には

同じように視線が固まっている宗谷。しかしその顔は、恥ずかしそうに赤くなっている……

針井とからんでる時にも見たこと無いような表情に、俺のほうも恥ずかしくなってしまった。

巫琴

「な、どうしたんだよ」

「そ、そっちこそ……見つめないでよ……」

 おてんばな印象はどこへやら、瞳をうるませて困っている。これはもしや……とりあえず

カツラの毛を取ってやることに。動かなくなってくれたのが幸いしてすぐに取れた。

「ほら、これがついてたんだよ」

 俺の視線が手に持つ毛に移るやいなや、いつものように怒った表情(でもまだ顔は真っ赤)になり

水色の毛をひったくる。

「そ、そんなこと最初から言いなさいよっ!これくらい自分で……」

「なあ宗谷、お前……見つめられるのに弱いだろ」

 半分笑いながらの俺の質問にあからさまに冷や汗を浮かべる宗谷。俺たちのやりとりに

気づいてか演奏を止めこちらを見ている部長と針井。不思議そうな表情からするに、二人とも

(針井はともかく部長は)こいつの弱点知らなかったんだな。そりゃ宗谷はあまり人と目を見て

喋ってなかったし、ベタベタして(されて)いる針井こそ目を見てないので、そういう状況が今まで

なかったのだろう。俺だって女の子と視線を合わせるってことはやっぱ恥ずかしいが、こんなに

はたから見てもわかるほど照れることはありえんだろ……

「意外に宗谷にもかわいいとごぉっ!?」

「ばっ、馬鹿言ってないでさっさと練習!!」

 思いっきり腹殴っておいてそりゃねえだろ……しかしこれで宗谷の暴力から逃れられる武器が

見つかったな(笑)だがこれをやるとその後にもっと強力な一撃が来たりして。しかもこの

「ギャップ」で俺もどうしていいかわかんなくなるし。男を寄せ付けないようなおてんばな

性格は、これを隠すためにそうなってしまったのかも……は、無いか。


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