命名


 朝、目覚まし音とともに起床。トースターにパン2枚入れてタイマーセット、フライパンに

たまご2つ割って目玉焼き。出来る間に新聞取ってきてTVをつける。朝の忙しいときは

時間を有効に使わなければな。でも飯食ってて服を汚す可能性もあるから、着替えは飯のあとだ。

 

 登校時。交差点へ向かう所で、前方に見慣れた後ろ姿が。

「瞳由ちゃーん」

 これで瞳由ちゃんじゃなかったら大恥ものだが、ほとんど毎日会っているので間違うはずも無い。

振り向いた彼女は笑顔で手を振って立ち止まってくれたので、俺は駆け足で近寄る。

瞳由

「おはよっ、と」

「おはよう。台風が近づいてるみたいね」

 この時期は台風がよく来るものだが、今年はいつもより多いような気がする。この前のは

ちょっと反れたが、次来るのは結構直撃コースのようだ。

「まあ、水不足が解消されるのはいいけどな」

「でも学園祭がある時は来ないで欲しいよね」

 台風が来て学校が休み、学園祭は延期されるだけなのだが、食べ物を扱うところは結構な

痛手だ。それに休みにならないほどの風でも、雨が降れば野外の出し物はやりづらい。

特にバンドクラブはな……たくさんのクラブのせいで体育館でやる時間もとれない。

「学園祭の時期には、台風も来なくなるだろ」

「そだね」

 交差点の信号は青だったのでそのまま渡る。渡りきった頃に、歩行者信号のランプが点滅しだす。

「そういえば、あの猫元気にしてる?」

 あの猫というのは、この前雨の日に瑠璃絵さんと拾った、白い猫のことだ。今はコンビニ店長の

おかげで店で飼わせてもらっている。

「うん、ごはんもよく食べるし、体もしっかりしてきたみたい」

「あまり食わせて太らせすぎるなよ〜?」

「大丈夫、店長がごはんの時間ちゃんと決めてあげるようにって言ってたから」

 本当にそこの店長は猫に詳しいんだな。それだったら……

「店長が家で飼えばいいんじゃないか?」

「なんでも、店長の彼女が猫嫌いなんだって」

「そりゃ大変だ(苦笑)」

 猫が嫌いってのは、小さい頃に猫のせいで恐い目にあって、それがトラウマになってるとか、

それ以外で猫嫌いって人はいないだろう。つーか俺も犬と猫、どっちかと言えば猫派かもな。

「でもね、一度来たお客さんが、猫にまた会いたくなって何度も来てくれるんだよ。私たちは

 忙しくなるけど(^^;」

「ほう、そりゃまさに『招き猫』だな」

「あ、ホントだ(^^)」

 すでに校門の前まで歩いてきていた。2学期から3年生は朝の補習とかで早く来ているため

今の時間帯はいつもより登校している生徒数が少ない。学園祭が終わると3年は本格的に受験

勉強だ。俺たちも来年は辛いな……

「そういえばさ、猫の名前って決めたのか?」

「うん、白猫だから『ライト』にしたの」

 その名前からするとオスっぽいな……って、「ライト」ってどっかで……?

「なぁ、その名前、もしかして瞳由ちゃんがつけた?」

「うん、覚えててくれてた?『ライト』」

 曖昧な記憶……というか、どうせなら忘れてた方がいいような記憶なのだが、そういうことに

限って思い出される。アートクラブが定期的に出してる冊子で、瞳由ちゃんが描いてた彼女の

オリジナルキャラの名前が、ライト……なんか俺に似てるっぽかったんだよな。忘れたいのは

そっちじゃなくて、その本には親父の漫画のキャラも描かれてたことで……

「ま、まあ……白だからライト、だけ?」

「猫って気まぐれな性格って言うでしょ?ライトも気まぐれなのよ」

 んなこと知るはずもなく……まあこれが自分の子供につけたりしたら重症だけどな、

「来人」とか。そういう俺の親父も、なんでこんな名前つけたかなー……苗字はともかく、

名前だけは普通に漢字で書きたかったが――テツでも「哲」とかさ。でも「タイト 哲」ってのも

変だよな、選挙ポスターみたいだし。苗字が漢字で名前がカタカナならわかるのだが。

 教室に到着。時間までその猫とか学園祭のこととかを話していた。そういえば学園祭終わったら

俺たちもすぐにテストなんだよな……それから3学期の修学旅行まで何もナシ、か。こうなったら

学園祭を思いっきり楽しむか。


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