思わず口にしてしまうほどその場所にふさわしくない人物を見かけた。時間は昼、飯時。
つまり学校の食堂に来たわけだが、いつも弁当なはずの七希菜ちゃんが先にテーブルで
学食を食べていた。しかも佑馬は近くにいない。
「七希菜ちゃん……?」
食事を盆にのせおそるおそる七希菜ちゃんに声をかける。振り向いたのは、やっぱり七希菜
ちゃんだった。
「あ、タイト君」
「いつも弁当じゃなかったっけ?」
「今日はちょっと寝坊しちゃって……」
恥ずかしそうに言う。まあ彼女にしちゃ珍しいが、きっと夜遅くまで読書でもしていたのだろう。
「それから……佑馬は来てないの?」
「えと、お腹の調子が悪くて、今欲しくないそうです」
朝の時間帯ならともかく、昼前って……? 朝飯抜いてきて、あとでパンでも買って食べたのが
腹にきたのだろう。佑馬はどっちかというと胃腸の弱い方だからな。
「そっか……そこいいかい?」
「ええ、どうぞ」
俺は彼女の向かい側に座った。流石に隣ってのは……佑馬が座るべきだし。
「そうだ、この前のデート、どうだった?」
聞いてから、男が男に、女が女に聞くのはわかるが、異性に聞くというのは妙なことだと
思った。でも七希菜ちゃんは答えてくれる。
「はい、楽しめましたよ。でも……」
「なんかあったのか?」
「ジェットコースターに乗ったら、やっぱり叫んで男の人にしがみつくべきなのでしょうか」
「……?」
さては、佑馬がそれを狙ってジェットコースターに誘ったが、思ったより七希菜ちゃんが
怖がらなかったからがっかりしてたんだな……あいつも考えたが、コースター嫌いだったら
嫌がるだろ、平気か嫌がるかなもの誘うなんて意味ないよな……
「……ま、無理に装うことはないんじゃないかな」
「……そうですか」
「まさか、お化け屋敷なんて誘われてないだろうな」
「あ、それはないですけど」
彼女のことだからお化け自体はそれほど怖がらないだろうけど、中には「血まみれ」のメイクを
施した幽霊もいるからな、その点は佑馬も肝に銘じていたか。
「帰る前に、観覧車に乗りました」
ホント典型すぎてかわいいデートだ(--; つーか遊園地でって時点で幼いんだけど。あれだ、
一番高いところで夕日に映る景色を見ながら「君の方が綺麗だよ」とか言って……
「何か……佑馬にされた?」
「えっ……別に……何も」
七希菜ちゃんでも俺の言った意図が察したようで顔を赤らめさせ、それを見て妙なことを聞いて
しまったと俺も赤面する。デートなんかしたことないから、俺の方が教える立場じゃないんだが。
「ゴメン、いろいろ聞きすぎちまったな」
「いえ……あの、タイト君は女の人と付き合ったことないの?」
今度は七希菜ちゃんからいきなりな質問が。まあ俺も尋ねたんだからいいけどさ……
「ない。あったとしたら、佑馬にバレて七希菜ちゃんにすぐバラすだろ」
「あ、なるほど……(^^;」
いろいろ話してたらいつのまにか時間はすぎてしまった。早いところ飯食い終わろう。俺が
皿にのっているものをかき込んでいると、
「でもタイト君、女の子に人気ありそうなのに……」
これまた突拍子なことを言われて、食事が喉に詰まりそうになる。が運良く気管に入ることは
なく飲み込めた。
「ぐ……ん、……マジ?」
「あ、私の想像ですよ、ほら、タイト君って大人びて見えるけど、ちょっとだけ子供っぽい所が
あるでしょ」
そうなのか……? 考えてみれば、あまりあったことの無い人とは喋らないから、寡黙に
思われがち(大人っぽい)なのだが、知り合いにはベラベラ話し出す(子供っぽい?)、ってのは
自分でもわかるよな、「内弁慶外地蔵」ってやつだ。だがそれが今の女の子にモテるかねぇ……
まあそういう「ツボ」を知ってたら、そうなるように努力してるだろうが。
「そういうのが、……そーなん?」
「私はそう思いますけど……違うんですか?」
「イヤ俺に聞かれても……男が選ぶなら、大和撫子ってのが多数派なんだろうけど」
つまり七希菜ちゃんのような娘な。実際男どもが話してたし。それにしても……七希菜ちゃんが
俺のことをそう見てくれてるということは……いつも子供っぽい佑馬はあまりモテないと思って
るんだろうか?(実際そうだろうが)だとしたら、幼なじみのよしみで付き合ってあげてるとか……
まさかな。そんなこと聞けるわけ無いし。
そのあとは特に話さず、飯食ってそれぞれの教室に戻った。後から聞いた話だが、佑馬の腹痛は
朝の味噌汁と昼前の牛乳が混ざってのものらしい。あの組み合わせは危険だよな……あいつ牛乳
好きなんだし、そのくらいは頭に入ってると思ってたけど……やっぱ進歩の無い所は子供だな。