ミス27HR


 学園祭の準備もほぼ完了し、ヒマをもてあますほどになっている。男子は将棋盤を持ち込んで

いたり、女子はトランプで遊んでいたり。まあギリギリになって焦るよりはマシだけどな。

佑馬の影響で将棋をちょっとかじったことがあるので、そちらを観戦することにした。

 男子って結構将棋知ってる割合が多いような気がするんだけど、教養として見につけるもの

なのだろうか?まあ動かし方覚えて相手の王様取ればいいだけのことなんだけど。数人の

男子が見ている中、先手が長考に入った(笑)。

「どーしよっかなー……お」

「……何かいい手があったのか?」

「そうじゃなくてさ、今年もアレやるのかな、ミスなんたら」

「ミス学園祭?そういえば……ってなんでそれが出て来るんだよ」

 考えごとしてる時は余計なことが浮かんでくるもんだよな、俺もテスト中にビーマニの曲とか。

しかしミス学園祭のことが出てくるとは、こいつの頭の中って……

「去年は3年生だったけど、今年は1・2年から出たりして」

「今年の3年はブサイクばっかだからな」

「失礼なヤツだな……そうだけど(笑)」

「誰だろ……やっぱやまふじ」

「芸能人がそんなのに参加するか! お前この前も言ってなかったか?」

「そっか……じゃあ千代川さん?」

「あの娘の方がそういうのに参加しないだろ……いや、名倉が無理矢理出場させたりして」

 それは無いと思うぞ……佑馬は彼女のことを独り占めしたいだろうからな。あいつは「人気の

彼女」じゃなくて、彼女自身を好きっていうのはいいところだな。

「じゃあ、ミス27HRってったら誰か」

「このクラス? といえば……逢坂さんとか?」

「顔はいいけど、あの性格はな(^^;」

 つい彼女の方を振り返ってしまう……が、今この部屋にはいないようだ。クラブの方を

手伝っているんだろう。確かに俺もあの性格にはついていけん(苦笑)ついていけるのは室長の

綿貫か、妙なことを言いまくる井森くらいか。

「というかあの子だけ目立ってるからなぁ。それでも他にもかわいい子いるよな」

「……なんかオヤジっぽいぞ」

「みんな同類だ。で、誰がいいよ」

「そりゃやっぱ……れっとさんかな」

「それを言うなられつどさんだろ。実は俺もそう呼んでいたが」

 いきなり瞳由ちゃんの名前を聞いてドキッとなってしまう。しかもクラスの男子も

知っていると思うが、俺は彼女とかなり親しい方なんだよな……

「今時珍しいよな、ああいう子って」

「何て言うんだろ……純朴?田舎とかの(笑)」

「あーあー、確かに」

 田舎って……彼女のいとこの家は、そりゃどっちかと言えば田舎だったけど……

まあ都会っ子って感じでもないと言えばそうだろうけどね……

「ああいう子と付きあってみたいよな」

「お前は付きあったこと無いから誰でもいいんだろ」

「誰でもってのはないだろ(--メ」

「でも、列戸さんってタイトと……」

 一人が俺の名前を言ったところで、その場の全員が俺の方を向く。こっ、これはマズイ、

ここで「タイトと列戸さんって付きあってるのか?」なんて聞かれたら俺は肯定も否定も

できなくなるぞ……何とかして話題を彼女から反らさなければ(ここまで1秒)(無理)。

「で、でもそういう子ってミス学園祭には合わないんじゃ?」

 …………

「……そういやそうだな」

「じゃあ誰がいいかな」

「つーかお前早く指せよ」

 ……ホッ。なんとか切り抜けたか。もう話を振られないようにこの場から離れよう。

でもバンドの練習時間にはまだ時間があるし。とりあえずジュースでも買ってこよう……

「あ、テツ君」

 !!

瞳由

 ……今までの中で一番心臓が跳ねたのは、瞳由ちゃん本人に呼び止められたことだった。

丁度アートクラブから戻ってきたところのようだが……

「お化け屋敷、進み具合はどう?」

「あ、ああ、もうほとんど終わってるから皆休んでるよ……」

「そう、これからバンドの練習?」

「え、あ、うん……」

「そうなの、それじゃね♪」

 ついうなずいてしまったが、ここでジュース買いに行くだけ、なんて言ったら「じゃあ私も」

なんてことになりかねん……って、何うぬぼれてんだ……? そりゃ俺たち仲がいいけど、

行く所行く所いつも一緒なんてそういうのでもなし。……でも俺はそれを望んでるはずなんだけど

どうも臆病で……結局バンド練習時間まで教室に帰れなくなってしまった。


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